平成7年1 共謀共同正犯・共犯からの離脱
【刑法】 平成7年・第1問
 甲は乙から、「強盗に使うのでナイフを貸してくれ」と依頼され、これに応じてナイフを乙に渡した。その後、乙は、丙・丁に対し、「最近、知り合いのAが多額の保険金を手に入れたので、それぞれがナイフを準備してA宅に強盗に押し入ろう。」と持ち掛け、3名で計画を立てた。ところが、乙は、犯行当日の朝になって高熱を発したため、「おれはこの件から手を引く。」と、丙・丁に電話で告げて、両名の承諾を得た。しかし、丙・丁は予定どおり強盗に押し入り現金を奪った。
 甲および乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。


=構成=

一、乙の罪責

 1、強盗の予備罪(237条)……強盗未遂の段階には至っていないが準備はしている、→予備罪の構成要件を充たす。
 2、 共謀共同正犯の成否

 丙、丁は、A宅に押し入り、強盗を働いている。この犯行の計画、謀議に乙が加わっていたことから、乙にも、住居侵入罪と強盗罪(130条、236条)の共同正犯が成立しないか。

  【共謀共同正犯の成立】

  ★重要な情報を提供して、二人を犯罪に誘引している→ 共謀の主導者と認定できる。情報の提供=重要な因果的寄与! 乙に誘われなければ犯罪が行われることはなかったといえる。

 【共謀共同正犯からの離脱】
 ・一旦与えてしまった情報という物理的因果性は消せないので、丙、丁による犯行の計画を中止させることが、離脱には必要であると考える。
 よって、離脱は認められず、乙には強盗の共謀共同正犯としての構成要件該当性が認められる。

 2、違法性、故意に欠けるところはない。

 3、 以上から、乙は強盗予備罪(237条)、住居侵入罪(130条)と強盗罪(236条)の共同正犯(60条)が成立し、強盗予備は強盗罪に吸収され、住居侵入罪と強盗罪は牽連犯(54条1項後段)となる。



二、甲の罪責
 
 1、行為及び結果の促進性の有無

   甲は、乙にナイフを渡して、強盗を物理的心理的に促進しているとして、強盗罪(236条)の幇助(62条)が成立しないか。
   【幇助の成立要件】
   ・正犯に援助を与えることにより、構成要件該当行為を促進し、また結果の惹起を促進すると言えることが必要である。
   (あてはめ) 甲はたしかに、乙という共謀共同「正犯」にナイフを渡し、犯行に向かう精神状態の形成に寄与しているとは言える。
 しかし、実際に構成要件該当行為を行ったのは、丙、丁であり、両者の行為および、その結果に対し、甲のナイフは直接的な促進作用を及ぼしていないと言える。
   共謀者たる乙を通じて、間接的に心理的寄与があると言えるとしても、その寄与度は間接的かつ微弱なもので、構成要件該当結果との加罰的な因果関係を認めうる程度には達していないと思われる。

 2、 以上から、甲には、強盗の幇助は成立せず、不可罰である。


以上

  




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以下ボツ

     共謀共同正犯なら、離脱の要件を欠く! 共犯として構成要件を充たす
     ×・丙、丁との関係:たしかに持ちかけてはいるが、指示とまでは言えず、乙の呼びかけを任意に拒否することも可能であったと思われるので、三名は共謀者団体とまでは言えないし、乙を団体の指導者的地位にあるとも言えない、→共謀共同正犯とはいえず、実行共同正犯であった。 ←×共謀を認める方向で、重要な情報を提供し、丙、丁を犯罪に誘引しているので。
   ×よって、離脱の意思を表明し、他の共犯者がそれを了承しているので、その時点で、丙、丁による構成要件該当結果と、乙の行為と間の因果性は切断したと考える。←切断しない