平成11年1 共謀共同正犯・承継的共同正犯
【刑法】 平成11年・第1問
 甲と乙は、乙の発案により、路上で通行人を恐喝して金を取ることを計画し、ある夜、これを実行に移すことにした。予定の場所に先に来た甲は、約束の時間を過ぎても乙が現れないため、いらいらしていたが、そこに身なりの良いAが通り掛かったので、計画を実行することにし、Aに近づいて「金を出せ。」と脅した。Aが逃げようとしたため、気の短い甲は、いっそAを気絶させた方が手っ取り早いと考え、携帯していたナイフの柄の部分で背後からAの頭を力任せに殴った。そこに現れた乙は、それまでのすべての事情を了解し、甲と一緒に、意識を失いぐったりしたAの懐中から金品を奪った。乙が一足先に立ち去った後、甲は、Aの様子がおかしいことに気付き、息をしていないように見えたことから既に死亡しているものと誤信し、犯行の発覚を防ぐため、Aの身体を近くの山林まで運び、茂みの中にそのまま放置した。Aは、頭部に受けた傷害のため数時間後に死亡した。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く)。


=構成=


一、甲の罪責

 1、 乙とは、恐喝(249条)の実行を謀議した。しかし、実際には、甲は暴行により反抗抑圧して財物を奪っており、結果Aが死亡している。また違法性、故意も認められるので、強盗致死罪(240条)が成立する。

 2、次に甲は、意識を失ったAを山林に運び、放置して死に至らしめている。
 (甲自身の行為により意識を失っており保護義務があるので)

ので、保護責任者遺棄致死罪(218条、219条)の構成要件及び違法性を充足する。

 3、しかし甲は、Aが既に死亡したと誤信し、死体遺棄(190条)の故意をもって、遺棄を行っているので、この錯誤により故意が阻却されないかが問題となる。
 【抽象的事実の錯誤】→保護法益の重なりの範囲で故意を肯定できる。

 あてはめ 遺棄という行為は重なっているようにも思えるが、しかし、保護法益に重なりがない。生命に対する危険という個人的法益vs死者の尊重、国民の宗教感情という社会的法益
 よって、事実の錯誤として故意を阻却する

 4 以上から、甲は強盗致死(240条)の罪責を負う。


二、 乙の罪責

 1、 乙は甲と恐喝(249条)の実行を謀議した。が、既遂の具体的危険は未だ発生していないことから、恐喝の未遂は成立しない。
 2、 乙が、遅れて現場に到着した時点で、甲は既に暴行によってAを反抗抑圧した後であった。そして、乙は、現在行われつつあることが強盗であることを認識してから、意識を失ったAから金品を奪っている。乙は、自らの加功前の甲の暴行まで含めて、強盗の罪を負うか、いわゆる承継的共同正犯の成否が問題となる。

 【承継的共同正犯】
 後行者の加功後にも、先行者の行為の効果が持続している場合、それを利用することで後行者の犯罪が容易になり、また後行者の参加により先行者の犯罪遂行も容易になる関係、利用補充関係があるとして、加功前の事実についても共同正犯を認めようとする見解が主張されている。
 しかし、結果が利用可能であるだけで、後行者に加功前の行為との因果関係を認めるのは妥当ではない。
 先行行為自体が持続していなければ、後行者の先行行為への関与はあり得ず、構成要件該当事実全体への関与はありえない以上、承継的共同正犯を認めることは出来ない。
 ……よって、乙は自らの加功後の行為にのみ責任を負う。乙の金品を奪う行為は窃盗(235条)の構成要件を充足する。

 3、違法性、責任 違法性を阻却する事由はない。
   故意については、乙は、甲によって実現された「それまでのすべての事情を了解」しているので、強盗の認識・予見がある。
   ここで、強盗の故意と、実際に実現した窃盗という事実の間で、抽象的事実の錯誤が問題となるが、強盗と窃盗の構成要件及び保護法益は窃盗の範囲で重なり合うと言えるので、窃盗の故意を認めることができる。

 4、以上から、乙は窃盗罪(235条)の共同正犯(60条)の罪責を負う。


 以上


 (乙につき過失致死の検討は……? 暴行をしていないので不要……)

 (2006/06/01)