平成2年2 強姦の実行の着手時期
【刑法】 平成2年・第2問
 甲は、かねて顔見知りのA女(20歳)を強姦しようと企て、自宅まで送ってやると言って、同女を自分の車に乗せた。途中で方向の違うことに気付いたA女が「降ろして」と頼んだが、甲は、構わず車を疾走させた。人気のない山中に着くと、甲は、強姦の目的でA女を無理やり車外に引っ張りだし、押し倒そうとした。極度に畏怖したA女は、「お金をあげるから勘弁して」と言って、現金3万円入りの財布を差し出した。甲がこの財布をA女から取り上げ、中身を調べているすきに、A女は逃げ去った。
 甲の罪責について論ぜよ。



=構成=

一、わいせつ目的拐取罪(225条) 各論の要件論をまとめること!

二、監禁罪 (220条)
  場所的移動の自由を侵害 事実上の拘束
   論点【移動の自由の内容】
   ・現実的自由説……降車を拒否した時点で成立
   ・可能的自由説……乗せた時点で成立
 

三、強姦未遂罪(177、179条)については 実行の着手時期=押し倒そうとした、←あっさり認定 なお親告罪(180条)

四、 ★財産罪 窃盗? 強盗? 暴行後に領得意思を生じているので強盗(236条)にあたらない。
   ・窃盗(235条)か、検討 任意に処分しているとすれば不可罰 →A女は「極度に畏怖した」ために、また強姦から逃れるために処分を申し出ているので任意性があるとは言えない。よって窃盗既遂罪(235条)が成立する。
    あるいは、畏怖したことによる瑕疵ある意思による交付があるので恐喝罪(249条)が成立する? ←恐喝罪とするには、瑕疵ある意思による交付行為を丹念に認定すること!
    ★窃盗にせよ、恐喝にせよ、財産的利益を不当に得ようとする故意が認定できるのだろうか??→取り上げ、中身を調べていることからギリギリ認定するしかない……

五、罪数処理


 わいせつ目的拐取と監禁は車に乗せて走るという一個の行為によってなされているので観念的競合(54条1項前段)になる。これと強姦未遂とは手段・目的の関係にあるので、牽連犯(54条1項後段)となる。
 これらと窃盗罪(ないし恐喝罪)は併合罪(45条)となる。