平成5年1 共同正犯・共犯の要素従属性
【刑法】 平成5年・第1問
 甲は殺人の意思で、乙は傷害の意思で共同してAに切りかかり、そのためAは死亡したが、それが甲の行為によるものか乙の行為によるものか判明しなかった。共同正犯の本質に論及しつつ、甲および乙の罪責について論ぜよ。


=構成= 難問 @総論 A事例 ときっちり分ける構成のほうがいいだろうか? →多分そう! そのほうが、書きやすい。分かりやすい。



一、共同正犯の本質について

【共同正犯の本質】

 (因果共犯論)
 共犯は、他の共犯者を介して構成要件的結果を惹起したことに基づく、共犯固有の違法・責任を根拠として処罰されるものである。

 (行為共同説)
 そして、共犯規定とは、他の共犯者によって惹起された事実・結果についてまで、共犯者に帰属させることを可能とする処罰拡張規定である。
 よって、共同正犯(60条)は、行為を共同して各自の犯罪を実行することであって、自己及び他の共犯者の行為による因果性、正犯性の範囲内で、共同して惹起した構成要件該当事実の範囲内で、各自の責任の範囲において刑事責任を負うことになると考えられる。


【共同正犯における共犯従属性】

 (実行従属性)
 共同正犯においても、共同者の誰かの行為により、既遂の具体的危険が惹起され、未遂が成立しうる段階になって初めて、他の共犯者も未遂の共同正犯として可罰的になる。
 (このことは、特に、共謀共同正犯において重要な意味を持つ。)

 (要素従属性)
 共犯が成立するには、正犯にいかなる要件が備わっている必要があるか。
 この点、構成要件該当性及び、違法性は、行為の客観的属性を示すものであり、この両者がなければ刑法の介入は許されない。それに対し、責任はその性質上、個人ごとに個別に判断されるので、正犯に責任が欠けるからといって、共犯者を処罰対象から除外するのは妥当ではない。よって、正犯には、構成要件該当性と違法性が備わっている必要があると言える。(制限従属性説)
  ・もっとも、教唆・幇助においては、その二次的責任性から、正犯の有する故意・過失によって定まる構成要件の範囲内でのみ共犯が成立する。
  しかし、共同正犯では、その正犯性によって、このような正犯の故意への従属性は否定される。よって、共同惹起した構成要件の範囲内で、自己の故意に応じた共同正犯が成立する。

 (罪名従属性)
 特定の犯罪を共同して実行すると考える犯罪共同説によれば、共同正犯には同じ罪名しか成立しない。
 そこで、Aが殺人の故意、Bが傷害の故意で、共同して人を殺した場合、両者の故意が重なり合う範囲内で、つまり傷害致死の限度で共同正犯が成立すると考える。(部分的犯罪共同説)
 しかし、Aの過剰部分が罪責がなお問題となるので、その部分は単独犯として処理し、結果、Aには傷害致死の共同正犯に加え、単独犯として殺人未遂が成立することになるが、このような処理では、共同現象の把握として不十分であると言える。
 この点、行為共同説によれば、罪名従属性は否定され、共同惹起した構成要件の範囲内で、各々の責任に応じた犯罪が成立することになる。
 上の例で言えば、Aには殺人の共同正犯、Bには傷害致死の共同正犯が成立することになる。

 以上の見解をもとに、本文事例を検討する。


二、甲の罪責

 1、構成要件該当性

 甲は、殺人の故意で、乙と共同して切りかかってAを死亡させていることから、殺人の行為と結果が認められる。
 しかし、死亡の結果が、甲の行為によるものか、乙の行為によるものか明らかではない。この場合、甲の行為と、死亡の結果に因果関係は認められるか。
 甲は、乙と共同して犯罪を実行していることから共同正犯が成立すると言え、「共同して切りかかっ」た共同正犯行為と結果の間には因果関係が認められる。
 よって、甲は殺人の構成要件を充足する。

 ×(なお、【同時傷害の特例】(207条)を類推適用して、甲の行為と結果に因果関係を認めることは許されないと考える。(理由、簡単に……))
 (共犯関係が明らかであるからそもそも207条を持ち出す必要の事例!)

 2、違法性 阻却事由なく、Aを殺しているので違法性あり

 3、責任 殺人の意思をもって、行為に及んでおり、死の結果を認識・予期していた。よって、殺人の故意は認められる。

 4、甲は殺人罪(199条)の共同正犯(60条)の罪責を負う。


二、乙の罪責

 1、構成要件該当性
 甲と共同して切りかかったことによりAが死亡していることから、殺人罪は成立しないか。

 甲と同じく、Aに切りかかり、死という結果が発生している。
 また、共同正犯行為により結果を惹起していることから、行為と結果に因果関係が認められるのは甲と同じである。

 2、違法性 特に阻却する理由はない。

 3、責任 
  乙には傷害の認識しかない → 殺人と認定できるか

  共同正犯においても、責任は個別に判断すべき

  乙の故意の範囲でしか、責任を負わない → 傷害致死の罪責を負う

 4、以上から、乙は、傷害致死(205条)の共同正犯(60条)の罪責を負う。



 以上

 (2006/05/31)