平成2年1 平等権
【憲法】 平成2年・第1問
 ある市において、一般職員の採用に関し、身体障害者については健常者に優先して一定の割合で採用すること、男性については肩までかかる長髪の者は採用しないこと、を内容とする条例を定めたとする。この場合の憲法上の問題点について論ぜよ。私企業が同じ取扱いをした場合についても論ぜよ。



=構成=

1・ 市について
 1) 問題提起 身体障害の有無、頭髪の長短、性別によって採用条件に差別がされており14条に反するのではないか。
 2) 前提【条例による人権制約】 あっさり肯定
 3) 【14条の解釈】→実質的平等、相対的平等 判断基準は「合理的な区別」の範囲内か否か。
 4) 身障者について
  (目的)身体障害者に優先枠を与えることは、社会的弱者の自立を援助し、就職の機会を保障するため、またその雇用を促進するという社会的要請に対し公共団体が率先して模範を示す意義から、目的は正当かつ重要である。
  (必要性)また、かかる優先枠を設けないならば、能力的にハンディキャップを負った障害者が就職することは健常者に比べ困難であることから優先枠を設ける必要性もある。
  (相当性) しかし、大きな優先枠を設けると逆に健常者から就職の機会を不当に奪うことになり、その場合は合理的な区別の範囲を逸脱し、不当な差別にあたることにもなる。
   よって、優先枠が、健常者の就職機会を不当に狭めない範囲であれば、かかる取り扱いは合理的な区別の範囲内であり、14条に反しない。
 5) 長髪の男子について
   長髪にする自由の権利性は、自己決定権として13条により保障されるだろうか。この点、髪型や服装を選択する自由は他者から侵害されるいわれもなく、一定の法的利益として認めることができるとしても、憲法上の人権とまで言い切れるかには疑問がある。
   しかし仮に人権とまでは言えなくとも、本文のように男子にのみ頭髪に条件を付し、女子については問わないとすれば、差別的な扱いとして平等権を侵害するとも思える。かかる扱いの相違は「合理的な区別」の範囲内と言えるか。
   (目的の正当性)そもそも男子に短髪を要求する目的が明確ではなく、長髪であることが市政の印象を害する、あるいは業務の執行に支障を来すとの判断にはなんら合理的な根拠はない。その規制目的には正当性がないと考える。
   正当性が認められない以上、必要性もなく、また性別による一律の差別的扱いが相当なものとも思われない。
   以上から、肩までかかる長髪の男子は採用しないとした条例は、平等権を侵害し無効である。

2・私企業について
 1) 問題提起 同じ採用条件を私企業が取った場合には平等権の侵害となるか。
 2) 【私人間効力:憲法の間接適用説】 →民法90条を介し、公序良俗に反するか否かで判断
 3) 市は憲法により行動の自由を制約される存在であるのに対し、私企業は経済的自由権の一環として採用の自由が認められる。 →基本的にどういう理由で採否を決定しても自由。(そもそも私企業には、地方公共団体と異なり、私人を平等に扱うべき憲法的要請はないと言うべき)(←ここでほぼ終了)(以下は「なお念のため検討」?)

 4) (ア)身障者 優先枠を設けることは当然自由、むしろ望ましいとも言える。誉められるべき行為。合憲。
    (イ)長髪の男子 服装や髪型で判断することも、当然、採用の自由として認められる。 
 5) 私企業の採用条件については、その採用の自由を保障するべきであり、例えば、女子は一切採用しない、あるいは、人件費抑制のため正規採用を減らしアルバイトを違法に長期で雇う、など、法的な要請に背く場合や、(女子は社長と愛人契約を結ばない限り採用しないなど。冗談。書かないけど……むしろ、結婚したら退職するなどの条件を付けることは問題)公序良俗に明らかに違反する場合でないかぎり、違法の問題を生じることはないと考えられる。


(2006/5/16)