平成11年1・受刑者の表現の自由
【憲法】 平成11年・第1問
 受刑者Aは、刑務所内の処遇改善を訴えたいと考え、その旨の文書を作成して新聞社に投書しようとした。刑務所長は、Aの投書が新聞に掲載されることは刑務所内の秩序維持の上で不相当であると判断して、監獄法第46条第2項に基づき、文書の発信を不許可とした。
 右の事案に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。


=構成=

1・問題提起 事例から、Aは投書を禁じられ、このことが表現の自由の侵害(21条1項)とならないか、また投書の禁止が「検閲」(21条2項)にあたらないか、問題となる。

2・【受刑者の表現の自由】 →秩序維持、矯正教化という在監目的による制約がある。 LRAの基準によって合憲性を判断?
 (LRAだと法律自体違憲になってしまう??)

3・監獄法46条2項の合憲性
 1)   監獄法46条2項は受刑者の信書の自由を親族以外に対しては原則禁止し、例外的に特に必要のある場合のみ許可することができると定めている。
 在監目的に対し、規制の手段が過大とも思える。特に許可を与える際の判断について刑務所長の大きな裁量権を与えている点。
 (しかし、在監目的の達成のため、現場の事情をもっともよく知っている刑務所長に広い裁量権を与えること自体は合理的なものであるとも言える。
 2)  そこで、但書きに定める許される場合を可能な限り広く認めていく運用がなされるならば、在監目的の重要性から考えて、必要最少限度といいうる制約に留めることが可能であると思われる。
 3)  よって、そのような運用がなされる限りでは、法46条2項は表現の自由を不当に害するとは言えず、また、信書の授受を絶対的に禁じているとも言えないことから検閲にもあたらない、と考えうる。
 (かなり苦しい……)

4・不許可処分の合憲性
 1)  では、法46条2項に基づく本文の不許可処分は合憲といえるか。 
 2)  受刑者の投書の内容。処遇改善を求める投書は、在監目的を直接的に害する内容とはいえない。また処遇の改善を求める利益は正当に認められるべきものであり、当事者の声を社会の一般市民に届けることには、受刑者の人権保障の観点から大きな意義があるといえる。
 3)  対するに不許可処分は必要最小限の規制とはいえない。投書が新聞に掲載されることで、それが他の受刑者の目に触れて、受刑者の処遇への不満を募らせ、それが秩序維持に悪影響を及ぼす恐れも確かにないとは言い切れない。しかし、それを防止するには、受刑者が閲覧する新聞の当該部分を抹消することで足りる。その投書を一般市民に届ける利益までも奪う必要性はないと言える。
 4)  刑務所長に与えられた法に基づく裁量権の合理性を考慮するとしても、本文における不許可処分が必要最少限度の制約とは言い切れない。
 よって、不許可処分は21条に反し違憲と言わざるをえない。


(2006/5/16)