平成12年1 職業選択の自由(私立幼稚園設立)
【憲法】 平成12年・第1問
 学校教育法等の規定によれば、私立の幼稚園の設置には都道府県知事の認可を受けなければならないとされている。
 学校法人Aは、X県Y市に幼稚園を設置する計画を立て、X県知事に対してその認可を申請した。X県知事は、幼稚園が新設されると周辺の幼稚園との間で過当競争が生じて経営基盤が不安定になり、そのため、教育水準の低下を招き、また、既存の幼稚園が休廃園に追い込まれて入園希望児及びその保護者の選択の幅を狭めるおそれがあるとして、学校法人Aの計画を認可しない旨の処分をした。
 この事例における憲法上の問題点について論ぜよ。



=構成=

 1 提起 学校教育法による、私立幼稚園の設置を認可制とする規定、及び、その規定に基づく、不認可の処分が、学校法人Aの、職業選択の自由(22)を害しないか。

 2 学校法人の権利
  1) 【法人の人権享有主体性】あっさり肯定
  2) 【職業選択の自由】性質上、肯定

 3 規正立法の合憲性
  1) 認可制は権利への大きな制限である、許されるのか
  2) 認可制の目的 子供の安全の確保 消極目的を有する→厳格な合理性の基準
  3)  あてはめ
      ・制限目的の重要性、幼児児童の安全を守れる適切な施設や専門性を持った職員の人数の確保など、さまざまな条件をクリアした者でないと、幼児を安心して任せられない、認可制にする必要性がある。
      ・手段の最小限性 かつ、事後的な監督指導では、子供の危険が現実になった時取り返すがつかないので、認可制は最小限の規制 
      ・よって、認可制を定める法規制は合憲

 4 不許可処分の合憲性
  1)不許可の理由
    幼稚園の「新設」により「過当競争」が生じ、「経営が不安定になり」、その結果「教育水準の低下」が生じたり、「入園希望児及びその保護者の選択の幅を狭める」危険を防止すること。
  つまり、教育サービスの質の低下から生じる、幼児と保護者の不利益を防止することが目的。どちらかと言えば消極目的に近いと思われる。少なくとも、積極目的としての緩やかな基準で判断すべきとは思われない。
 よって、厳格な合理性の基準で。
  2)目的は正当
  3)手段は、……競争が水準の低下を起すとは言い切れない。むしろ、生徒獲得のため、全体として教育サービスの質が向上するとも期待される。
  健全な競争により、良質なサービスを提供できない幼稚園が「休廃園に追い込まれ」たとしても、そのことが選択肢を実質的に狭めるとは言い切れず、むしろよりよい選択が可能になるとも言える。
  また新規の設置を不認可にする処分によらなくても、適切な監督により、水準の低下は防止出来る。
  4) 以上から、目的かつ重要であると言えるが、目的達成のための手段として必要最小限とは言えず、X県知事の不認可処分は違憲である。


(この件では、教育の自由は問題にならないと思われる。教育を受ける権利はあるが、「教育をする権利」ってのは……どうなんでしょ)

 (教育の自由= 子供の学習権に仕える限度で認められるもの、むしろ責務に近い……)
 (教育を施すにあたって、公権力から不当な干渉を受けない自由)


(2006/5/19)