平成2年2 法律と予算の不一致
【憲法】 平成2年・第2問
 法律と予算の不一致がどのような場合に生じるか、その原因を説明し、不一致が生じた場合の国会と内閣の責務について論ぜよ。


=構成=

一、 不一致の発生
 1  法律とは、国会が定める一般的抽象的法規範を言う。これに対し、予算とは一会計年度における国家の歳入歳出の見積もりである。
 この両者に不一致が生じるのは、どのような場合か、またその原因は何か。
 2 まず、前提として、予算も法律であるとすると、あとに成立したほうが効力を有することになり矛盾が発生しないことになる。そこで、予算の法的性質をどう考えるかが問題となる。
この点、@予算の成立手続が法律とは異なっていること、Aその効力が国民一般に向けられたものではなく、国家にあてられた規範であることなどを根拠として、予算は法律とは異なる法形式であると考えることができる。
・しかし、@成立手続が違うことは、予算成立手続を定めた60条が59条1項の「特別の定め」のある場合に当たるとして説明出来るとし、またA国家機関のみを拘束する法律はめずらしくないし、効力が一年限りである点も時限立法と考えることができるとして、予算を法律そのものと考える説もある。この説によれば、予算と法律の食い違いが生じないという利点があるとされる。
 しかし、一会計年度の効力しか持たず、また参議院の決議を経ずして成立する予算が法律としての効力を持ち、先に成立した法律の効力を失わせることを認めるとすれば、参議院の存在意義を著しく損なうことになり妥当でないと考える。
 よって、予算は提出権が内閣にのみ認められており、議決成立手続もその他の法律とは異なることから、やはり法律とは異なる法形式であると考えるべきである。
 そして、予算を法律とは別種の法形式と考える立場からは、法律と予算のあいだに矛盾が生じうることになる。
 3 両者に矛盾が生じる場合としては、(1)予算を必要とする法律が成立したが、そのための予算が組まれない場合、(2)予算は成立したが、その予算を執行すべき根拠となる法律が否決された場合、がありうる。
 4 では、かかる不成立が生じる原因は何か。
   予算は、予算案の提出権を内閣が持っている(73条)。
法律については、衆議院で可決したが、参議院で否決されたという場合、再度衆議院において三分の二以上の賛成を得られなければ成立しない(59条)。
  しかし、予算案は速やかに成立させる必要性があることから、衆議院の可決があれば、一定の条件の下で、衆議院の議決がそのまま国会の議決とされる。(60条)
  これらの成立手続上の相違があることから、両者に矛盾が生じることになる。


二、不一致の場合の処理
では、矛盾が生じた場合、国会及び内閣は、どのような責務を負うことになるか。
 1 法律成立 予算不成立 の場合
(1)国会の責務 法的責任はなし 予算の提出は内閣の専権事項 法律を廃止する義務など当然負わない。
・ただし、政治的責任を負う →予算の提出を内閣に働きかける、
→それでも駄目なら 内閣不信任案(69条)の提出をすべき :法律が成立したのに、その執行のための予算措置を講じない内閣とは国民の意志に背く内閣であるから、国会はその政治的責任を追及すべき
(2)内閣の責務 予算措置を講じる法的義務を負う(法律を忠実に執行する義務がある)

 2 予算成立 法律不成立 の場合
(1)国会 法律成立の法的義務を負わない。法律を成立させる政治的義務もない。特に、衆議院で予算を可決したが、参議院では反対していた場合で、予算を根拠付ける法律も参議院で否決されている場合、このような場合に、衆議院の独断専行を防止する点にこそ参議院、二院制の存在意義がある。
(2)内閣の責任 予算があるのに法律が成立していない場合は、内閣はその成立に向けて、国会で可決されうるような法律の改正案をまとめて、国会に提出するなどの責任を負うと考える。



以上


(2006/06/30)