平成12年2 規則制定権と法律 41条、77条、58条2項
【憲法】 平成12年・第2問
 最高裁判所の規則制定権と国会の法律制定権の競合関係について、議院の規則制定権と国会の法律制定権の競合関係と対比しつつ、論ぜよ。


=構成=



一、 最高裁判所規則と法律の競合
1、 まず41条は、国会を「国の唯一の立法機関」と定める。この規定はいかなる意義を持つか。

「唯一の」の意義
  41条が「唯一の」立法機関と定めた意義は、二つある。
まず、@国の立法行為は、憲法に特別に定められた場合を除き、常に国会によってなされるべきであること、すなわち原則として立法権を国会が独占する国会中心立法の原則を定めている。
 そして、A国会が立法を行うにあたっては、他の国家機関の助力を受けず、その関与や介入を排除し、国会が単独で法律を制定できること、すなわち立法の手続において国会の自律を認める国会単独立法の原則を定めている。

 「立法」の意義
 では41条の「立法」とは具体的には何を意味するか。
 この点、立法を形式的意味で捉え、国法の一形式である「法律」を定めることであるとする見解があるが妥当ではない。
 国会の立法権は、国会の議決によって成立する「法律」と名のついた法規を制定することに限られ、その他の名の法規であれば他の機関が自由に制定できるとすれば、国会の権限を定めた41条は名目的な機能を有するに過ぎないことになり解釈として妥当ではない。
 そこで、「立法」の意義は実質的に、かつ広く解釈すべきである。
 すなわち、国会の権限が及ぶ法規とは、一般的抽象的な法規範すべてを含むと考えられる。また、直接間接に国民を拘束し、または国民に負担を課する法規範を制定することはすべて「立法」行為にあたると考える。

2、最高裁の規則制定権の意義 77条

最高裁判所は、訴訟手続、弁護士、裁判所の内部規律及び、司法事務処理に関する事項について、規則を定めることができる(77条1項)。また、検察官もこの規則に従う(同2項)
 これは、立法権を国会に独占させた41上の例外として憲法上認められた最高裁判所の権能である。
 かかる例外的権能が最高裁判所に与えられる根拠は、@司法に関する事項につき国会や内閣の干渉を排除し司法の独立性を保つこと、また、A裁判実務に精通した裁判所こそが、手続に関してもっとも適切に定める能力を有する、という二点にある。

3、競合可能性
77条に規定された、最高裁判所が規則を定めうる事項については法律との競合関係があるだろうか。
この点、77条所定の事項については裁判所の専権事項であり、国会はこれらの事項について立法できないとすれば、そもそも競合はあり得ないことになる。(専権事項説)
しかし、41条の国会中心立法の原則に照らせば、77条が、その所定の事項については国会の立法権を排除しているとまでは思われない。かかる事項についても、国会は必要に応じて立法をなすことができ、その結果、法律と最高裁判所規則とは競合関係にたつと考えられる。(競合事項説)

4、優先関係
では、その両者が競合する場合、いずれが優先するか。
まず、裁判所の内部事項、司法事務処理事項については、裁判所の独立性の維持に直接かかわることから、立法府は、裁判所の規則を尊重すべきであると言える。
 かかる事項について、矛盾する立法をなすことには謙抑的であるべきだし、規則と矛盾する法律について、規則のほうに合理性が認められるならば、規則に合わせて法律を改正する措置を取ることなども望ましいと言える。
 しかし、司法権を独占する裁判所の規則が、常に法律に優先するとすれば、それらの事項について国民の意思を反映させる途が閉ざされることになり妥当ではない。よって、内部事項、司法事務処理事項についても単純に規則が優位するとは言えないと考える。裁判所の独立性の保障は重要な憲法的価値であるが、かといって非民主的な組織である裁判所が国民の意識から遊離した独善に陥ることは避けねばならないし、それを最終的に担保しうるのは国民意思を反映させうる法律であると考えるからである。
 その他の事項、特に刑事訴訟手続など国民の権利義務に直接かかわる事項については、民主的な手続により制定され、国民の意思を反映することの可能な法律が規則に優位すると考える。


二、 議院規則と法律の競合(ここで、比較しつつ述べる?)
次に、議院規則と法律との競合関係について検討する。

1、議院規則制定権の意義 58条2項
58条2項は、会議などの手続と内部規律を自主的に制定する権能を両議院に認めている。
国会は、国民の意思を代表し、他の国家機関の干渉を受けずに立法権を行使する独立性、自律性が保障されねばならない。
また、憲法が民主的二院制を採用している趣旨は、両議院が相おぎなって、より慎重に立法権を行使することにあり、特に参議院には衆議院の独断専行を牽制する役割が期待されていることから、両議院がお互いから独立していることも重要である。
 かかる二つの独立性、自律性を維持するために、憲法は両議院に、自主的な議院規則制定権を保障している。

2、国会法との競合
しかし議院を規律する法規としては、議院規則以外に、国会法が存在し、両者が競合しうる関係にある。
この点、会議などの手続と議院の内部規律は議院の専権事項であると考えれば国会法は不要であるとも思われる。(立法時の総司令部の立場)
しかし、両議院に共通すべき手続や、内閣を拘束する規定について議院規則で定めるのはおかしいとして国会法が設けられたという経緯がある。(日本政府側の主張)

3、国会法との優劣関係
では、両者の規定が競合した場合、どちらが優位すると考えるべきか。
この点、規則が一院の意思で制定されるのに対し、法律は両院の意思の合致により制定され、より民意を反映するので、国会法が優位するとする考えもある。
しかし、国会法が優位するならば、法律の制定について衆議院の優越(59条2項)が認められていることから、参議院の自主性・独立性を害する恐れがある。
また、内閣が法案提出権(72条)を行使して、国会法の改廃にイニシアティブをとり、両議院の独立性に不当な干渉をなしうることにもつながり、妥当ではない。
よって、両議院の独立性をより確実に保障するためには、国会法に対し、議院規則が優位すると考えるべきである。
また国民の代表機関である国会が定めた法律に、議院規則が優位すると考えても、そもそも両議院がそれぞれに国民の意思を代表する機関である以上、国民主権原理との関係で問題はないと考える。
(なお、この立場からは、58条2項記載の事項についてはもっぱら規則によって規定されるべきであると解され、また、にもかかわらず国会法で定められている事項は、両議院の紳士協定以上の意味を有さないと考えることになる。)



三、 両競合関係の比較
 1、共通点
 最高裁判所の規則制定権と国会の法律制定権は、それぞれ、両機関の独立性を保障するために、認められた国会中心立法原則(41条)の例外であるという共通性を有する。
 また、両規則ともに、規則事項について法律と競合関係に立ちうるという点にも共通性がある。

 2、相違点
  しかし、法律との優劣関係については、議院規則が法律に優位すると考えられるのに対し、最高裁判所規則については法律が優位するという結論をとるべきであり、優劣関係が両者で逆転している。
  かかる相違が生じる理由は何か。
  ひとつの理由は、両機関の性質の相違である。
議院規則は、国民の意思を代表する議院がみずから定めるものであって民意を反映するものであるが、逆に、裁判所規則は、国民の意思から独立した非民主的な機関であり、かつ法律を解釈適用する権限を独占する機関である裁判所が定めるものである。
 その規則が法律に優位すると認めてしまえば、裁判所によって国民の意識からかけ離れた規則が制定された場合に、民意によってそれを補正する手段が失われてしまうという問題があるからである。
もう一つの理由は、規則制定事項の内容の相違である。
議院規則は、会議の手続や内部規律事項について定めるものであるから、国民の人権との関係で問題を生じることはないと思われる。
 これに対し、裁判所規則は、訴訟の手続についても定めるものであり、訴訟の場面で、国民の権利義務や人権保障と直接的な関係を有することになる規則である。
 特に刑事訴訟については、その手続の重要部分は法律で定められなければ、適正手続を保障した31条に反することにもなる。
 もっとも、訴訟の運営は高度に専門的な要素を含むから、裁判所が専門性を活かして、細かな手続を定めた技術的、細目的事項を規則で規定することは、裁判の適切な運営を通じて、人権の保障に資するものである。
 しかし、訴訟に関する規則は、かかる細目的事項であっても、それがために国民の権利が害されることは極力避けるべきである。
 そのためには、最終的には民主的な手続によって制定された法律が優位すると考えたほうが、より人権の保障に資すると考えられる。
 以上の二つの理由から、裁判所規則においては、競合事項につき法律が優位するという結論に至るのであり、その点が、議院規則との大きな相違点である。


 以上


 (2006/06/30)

(備考:メインは最高裁判所規則のほうなので、実際には、議院規則のほうは比較対象としてあっさりふれるに止めるべき。二、はバランスとして書きすぎ。)