平成4年1 政教分離
【憲法】 平成4年・第1問
 A市は、市営汚水処理場建設について、地元住民の理解を得るために、建設予定地区にあって、四季の祭を通じて鎮守様として親しまれ、地元住民多数が氏子となっている神社(宗教法人)の境内の社殿に通じる未舗装の参道を、2倍に拡幅して舗装し、工事費用として100万円を支出した。なお、この神社の社殿に隣接する社務所は、平素から地区住民の集会場としても使用されていた。A市の右の措置について、憲法上の問題点を挙げて論ぜよ。


=構成=

1 問題提起 本文においては、市が、汚水処理場建設という目的のために、神社に対して参道の拡幅・舗装の費用を支出している。この行為が政教分離原則(20条1項後段・20条3項)に反しないか。

2 政教分離原則
 1) その趣旨 論証【政教分離原則】
 2) 厳密に貫くと違憲となる、しかし、厳密に貫いた場合の問題点 → 例外的に行為を許容する必要性 →基準設定の必要性 →法的性質論ははしょって……【目的効果基準】

3 本問の事例について(あてはめ)
 目的効果基準に沿って本問の事情を検討する。

 1)目的の世俗性
 市営の汚水処理施設を建設するため、地域住民の理解を得るために、本来の目的とは無関係な支出によって利益供与することは、すなわち住民へのご機嫌取りであり、反対表明をしにくくする心理的効果を狙ったものといえ、そもそもそのような行政手法が妥当なものかという問題がある。しかし、政教分離との関係だけをみるならば、宗教的な意義はなく、目的は世俗的である。

 2)効果の宗教的中立性
 「社務所は、平素から地区住民の集会場としても使用されていた」という事情からは、参道の拡幅・舗装によって、地域住民の集会場の利便性が高まっており、世俗的な効果を持つとは言える。
 しかし、その工事によって、宗教団体たる神社が利益を得ることも事実であり、特定の宗教を援助する効果を有する。
 また、「地元住民多数」がその神社の氏子である、といえども、少数の氏子ならざる住民との間で受ける利益に差があるということは、宗教上公平な取り扱いとは言えない。

 なお問題文からは明らかとはいえないが、社務所の集会場としての利用が、本来公的に手当てされるべき町内会館などが不備であるために、その代用として利用されていたとすれば、それ自体が政教分離に反する不公平な事態だとも疑われるところであるし、仮にそうだとすると、本問工事はその不適切な状態を助長するものであるとも評価しうる。
 (逆に、公的な集会に利用しない、単なる私的な寄り合い所としての利用であったとすれば、それに対して市が便宜を図ることは、そこを利用しない他の住民との関係で不公平感があると思われる。)

 3)結果の宗教的独立性
 本問における工事への支出は、汚水処理施設建設というそもそもの目的との関係で正当性に疑問があり、合理的な支出とはいえない。
 いわば、神社は労せずして、法律上理由のない利益を得たのであり、100万円という決して少額とはいえない金銭が支出されていることからも、多宗教と比較したとき、市と神社とのあいだに不健全・不適切かつ過大な関り合いを生じる恐れがあるといえる。

4 結論
 本問の参道拡幅舗装工事への市の支出は、宗教を援助する効果を有し、特定宗教との関り合いを生む行為であって、政教分離原則に反し、違憲無効である。
 (なお、住民はいかなる方法で救済を求めうるか。
 政教分離の法的性質が、具体的権利ではなく、それを制度的に保障した制度であるとすれば、権利の侵害を主張することは出来ないとも言えるが、その場合でも、市の不適切な支出に対し、監査請求、是正を要求し(地方自治法242条)、住民訴訟(地方自治法242条の2)によって、無効確認、損害賠償請求などを求めうる。)

 以上




(2006/5/17)