平成6年1 土地の強制収用、29条の解釈
【憲法】 平成6年・第1問
 用地の取得が著しく困難な大都市において、公園および公営住宅の建設を促進するために、当該都市に所在する私有の遊休土地を市場価格より低い価格で収用することを可能とする法律が制定されたと仮定する。この法律に含まれる憲法上の問題点を挙げて論ぜよ。


=構成=

 1 問題の所在
   本問では、「公園および公営住宅の建設」という公益目的のために、「私有」地を収容する立法がなされているが、財産権を保障した29条に反しないか。

 2 29条の法的性質
   【29条の法的性質】 制度のみならず、具体的な財産権を保障する。 →土地所有権は29条により保障される。

 3 2項の「公共の福祉」による制約
   1)【二項の意義】内在的制約(消極的警察的制約)に加え、政策的な制約(積極規制)にも服しうることを意味する。
    【2項による制約の判定基準】合理性の基準 ←目的二分論への批判を書くか書かないか……
   2) 収容目的の合理性
    ・公園や公営住宅の整備 国民の福祉増進に役立つ→有益である。公園の意義(避難場所の確保を含め)や、住宅事情からは、必要性も認められる。
    ・また、現に人の住む土地を強制収用するわけではなく、有給土地に限って収用対象とする点で、合理的な制約の範囲内であると言える。
 4 3項「正当な補償」
    「公共のために」私有財産を「用いる」ためには、「正当な補償」が必要とされる。が、つねに必要ではなく、「特別な制約」の場合に要求される。
  1)【3項による補償が必要な場合】 →補償が必要な場合に当たる
  2) 「正当な」補償といえるか 【「正当な」の意味】完全補償原則説で!
  3) 特別な規制にあたる場合は、完全な補償が必要であると考える。よって、市場価格よりも低い価格での収用は、「正当な補償」(29条3項)とは言えず、財産権を不当に侵害するものとして許されない。 

 5 3項による直接補償
  なお、正当が補償がなされなかった場合にも、3項による直接請求が認められうることから、それによって正当な補償がなされるならば、収用を違憲無効としない、という処理が考えうるところではある。
 しかし、本問の場合、「用地の取得が著しく困難な」理由は、土地価格の高騰にあると思われる。であれば、市場価格での完全な補償をしないことこそが、本問立法の目的であるから、直接請求を検討する余地はないと思われる。