平成8年1 集会の自由
【憲法】 平成8年・第1問
 団体Aが、講演会を開催するためY市の設置・管理する市民会館の使用の許可を申請したところ、Y市長は、団体Aの活動に反対している他の団体が右講演会の開催を実力で妨害しようとして市民会館の周辺に押しかけ、これによって周辺の交通が混乱し市民生活の平穏が害されるおそれがあるとして、団体Aの申請を不許可とする処分をした。
 また、団体Bが、集会のために上記市民会館の使用の許可を申請したところ、市民会館の使用目的がY市の予定している廃棄物処理施設の建設を実力で阻止するための決起集会を開催するものであることが判明したので、Y市長は、団体の申請を不許可とする処分をした。
 上の各事例における憲法上の問題点について論ぜよ。



=構成=

1 提起 両団体の市民会館使用申請にたいし、市長が不許可処分を行うことは妥当といえるか。
2 前提として

 【集会の自由の重要性】
 【許可制の問題点・事前抑制】 →市民会館の場合、利用希望が競合した場合に調整する必要がある。また、使用の方法が施設の目的にてらして不相応だったり、施設の維持管理に支障を来すものである場合、利用を制限することも必要な場合もある。よって、不許可にする原因を明確に定め、それに該当しない場合は原則的に許可を出すとすれば、実質的には届出制と同等に自由を保障しうるので、違憲とはいえない。
 では、AB両団体への不許可処分は適切といえるか、以下順に検討する。
3 表現の自由の規制に対する合憲性判定基準
 1) A団体への不許可の理由は、他の「反対団体が押し寄せ、周囲の交通が混乱し、市民生活の平穏が害される」ことを防ぐ公益目的であり、A団体の表現の内容を制約しようとするものではないので、内容中立規制と考えられる。 →【内容中立規制・目的の必要不可欠、手段のLRA】
 2) B団体への不許可は、その利用目的が「Y市の予定している廃棄物処理施設の建設を実力で阻止するための決起集会」あることを理由とするもので、内容に着目した規制であり、表現の自由を害する程度は大きいといえる。よって、その制約の合憲性は 【目的審査につき、明白かつ現在の危険の基準、 手段審査につきLRAの基準】

4 あてはめ

  両基準に照らし、各不許可処分は許されるか。
 1) A団体への処分
  目的は必要不可欠といえる
  しかし手段はどうか。治安を害するのは直接的にはA団体ではなく反対団体である。であれば、危険を防止する措置も、まず反対団体の不穏当な行動にたいして向けられるべきである。反対団体が治安を乱すという理由で、表現の自由を制約するならば、不正を正に優先させる結果となり、到底言論の自由を守ることはできない。
 治安維持という目的達成のためには、まず警察などの警備を要請することが必要であり、かつそれで目的を達成しうる。Y市長の不許可処分は、もめ事を恐れるあまり安易な手法に走ったと言わざるをえず、手段として正当性を欠き、必要とも最小限とも言い得ない。
 よって、A団体への不許可処分は表現の自由を不当に制限するものであり、許されない。
 2) B団体への処分
  不許可処分は、その目的が「明白かつ現在の危険」を防止するためのものであると言えるか。
  集会の目的が「Y市の予定している廃棄物処理施設の建設を実力で阻止するための決起集会」であることを考えると、たしかに、おだやかではないとも懸念されるところではある。
  もっとも、「危険」とは何に対する危険かといえば、「廃棄物処理施設の建設」が支障なく進行することが害される危険であるにすぎず、そもそも言論の自由を制限するに足る、重要な危険といえるか疑問がある。
 加えて、この危険を防止するために決起集会を禁止することは有効どころか、逆に、火に油を注ぐことにもなりかねない。真に危険を除去したいのであれば、住民が反対する理由自体を解消することこそが有効であろう。反対の理由が接収された土地の問題であれば、補償について誠実に話し合うこと、また、環境の悪化を懸念するという理由に対しては、環境への負荷をいかにして少なくし安全性を確保するかを説明し、施設の必要性を納得してもらう、という努力が重要である。
 そもそも、決起集会を開いたことが、直接、ただちに施設建設という行政目的にたいする「明白かつ現在」の危険を生むとはいえない。
 よって、B団体への不許可処分は、不当に表現の自由を害するものであり、許されない。