平成8年1 弁護人
【刑訴】 平成8年・第1問
 刑事手続における弁護人の役割について述べよ。


=構成=

一、刑事訴訟における当事者主義

【弁護人の定義】
弁護人とは、刑事訴訟において、選任されて被疑者・被告人のために弁護することを任務とする者を言う。

【弁護人の意義】
刑事訴訟法は、当事者対等の原則を採っており、被疑者・被告人と検察官とは対等の地位にたつ。しかし現実には国家権力の担い手であり、法的専門性を有する検察官と、被疑者・被告人とでは、持てる権限や能力に大きな差があるのが現実である。
 そこで、当事者の平等を実質的に実現するために、被疑者・被告人にはさまざまな権利が保障されている。弁護士を依頼する権利もその一つである(憲法34条、37条3項)。
 法の専門家である弁護士に、被疑者・被告人を弁護し援助させることにより、訴訟主体として、検察官との実質的対等を確保し、その防御的地位を確実にすることが可能となる。


二、弁護士依頼権の実質的保障(国選弁護人制度)

 1、このように法的な権利として弁護士依頼権が保障されているが、これをまったく自由放任にすれば、経済的弱者などは実質的にその権利を実現することができない。そこで、一定の条件がある場合には、国の負担によって、国選弁護人(憲法37条3項)を付する制度がある。
 経済的貧困のため私選弁護人を依頼できない場合には、被告人の請求により(36条)、また、未成年や老齢者などの場合、裁判所が職権で、弁護士を附する(37条)。
 また一定の重い刑罰が課せられる事件については、弁護士をつけなければ審理が出来ない(必要的国選弁護、289条)。
 2、当事者主義訴訟構造においては、捜査は訴追側の公判準備活動と捉えられる。そして捜査段階での証拠収集活動が公判の結果を左右する。であれば、被疑者の人権を保障するためには、捜査段階から弁護士をつけて実質的な当事者対等を実現する必要がある。
 そこで、身柄を拘束された被疑者については弁護士依頼権が保障されており(憲法34条、法30条)、また、被疑者の段階から、被疑者の請求によって国選弁護人を附する制度が新設され(37条の2)、より一層の人権保障が図られている。

三、捜査段階での弁護士の役割

 では、かかる弁護士は刑事手続において、いかなる役割を果たすか。まず、捜査段階から述べる。

 1、身柄拘束の解除
・勾留請求(205条)をしないよう検察官と交渉
・勾留理由開示請求や勾留取消請求(207条1項、82条、87条)
・処分に不服があれば準抗告(429条)
★身柄拘束がされたうえは→接見交通(39条)により、家族の様子、外部の状況を伝え、精神的不安を和らげる。黙秘権の侵害(憲法38条2項、法198条2項)など、違法捜査のチェック、によって、適正手続の保障(憲法31条)を確保。
・重要な権利への制限である接見指定(39条3項)に、不服がある場合は、準抗告(430条)

 2、捜索差し押さえへの防御
☆物的証拠の押収は生活や業務に支障がない範囲に止めるべき
・準抗告(429条)←物的証拠の押収について、手続に違法があれば
・押収物還付請求(222、123条)

3、公判準備活動
・証拠保全請求(179条1項)
・証拠物の閲覧謄写請求(180条1項)


四、公判段階での弁護士の役割

1、身柄の開放への努力
・勾留の取消請求(87条)
・保釈請求(88条以下)

2、訴訟活動
・公判前整理手続(が取られる場合)において、裁判所に対する証拠開示命令の請求(316条の26)(新設)
・第一回公判期日前の準備活動(規則178条の2以下)←迅速な審理の実現のため
・第一回公判期日:冒頭手続での罪状認否(291条2項)
・証拠調べの段階:
・冒頭陳述(規則198条)
・検察官の立証に対する異義申し立て(309条1項)
・書類の提出への不同意(326条1項)
・反証のための証拠調請求(298条1項)
・反対尋問(304条2項)
★これらは、検察官の立証事実への弾劾として行う
★また、弁護士の任務は被告人の無実の立証にあるので、弁護士の真実義務はその範囲内のみで認められる。
・弁論の段階:最終弁論(293条2項)
・上訴(355条)
・控訴審での弁論は弁護人にのみ認められる(388条)←法律家としての専門的主張



 以上……

(2006/06/16)

★★★★同じように、手続全体を通して、裁判官、検察官についてもまとめるといいかも……