平成元年1 贈与・
【民法】 平成元年・第1
 Aは,Bに対し,自己の所有する中古のステレオセットを贈与することを約し,Bへの送付をCに委託した。ところが,Cによる輸送の途中,Dがこのステレオセットを盗み,Eに売り渡した。
1 この場合に,A・BおよびCは,Eに対し,ステレオセットの引渡しを請求することができるか。
2 A・B・Cいずれもステレオセットを取り戻すことができなかった場合に,BがAに対してすることができる請求およびAがその請求を拒むことができる根拠について説明せよ。


=構成=

一、小問1について

 ABCがEにステレオセットの引渡を要求する手段としては、占有回収の訴え(200条)、所有権に基づく返還請求、盗品回復請求(193条)が考えられるので、以下、順に検討する。

 1、 占有回収の訴えについて

  占有回収の訴えを提起できるのは、占有者である。本問では、委託を受けて輸送中であったCが直接占有者であり、Cに委託したAもまた間接的に占有しているので、この両者が、占有回収の訴えを提起できる。
  ただし、Eは占有侵奪者Dから購入したので、特定承継人(200条2項)にあたる。よってEが侵奪の事実を知っていた場合にのみ、引渡を請求できる。

 2、所有権に基づく返還請求

 明文はないが、物に対する円満な支配を維持するため当然に認められる所有権の権能である。
 本問における所有者はAか、Bか。所有権の移転時期が問題となる。

 【所有権移転の時期はいつか】物権行為時説 →代金支払い・引渡・登記時などに移転する ★これは通説と異なるので、がっちりと論証すること!!


 動産の贈与の場合は、引渡の終了時に移転する。
 所有者はAである=返還請求が出来る


 3、即時取得と盗品回復請求

 以上の引渡請求に対し、Eは即時取得(192条)を主張することが考えられる。
 しかし、ステレオセットはCがDに盗まれた盗品であるから、盗難のときから二年間は、被害者または遺失者は、占有者に対し引渡を請求できる。その限りでは即時取得の主張は制限されることになる。

 4 以上から、AとCは上記の方法でEにたいし引渡を請求できる。
   Bは、目的物に対し、いまだ占有も所有もしていないので、請求は出来ないと考える。 (←しかし、そう考えると次に書くことが少なくなる……)


二 小問2について

 1 Bからの請求 

  Aは贈与契約をしたので、ステレオセットをBに引き渡す債務を負っている。
  本問では、本来的給付は不能であることから、Bは債務不履行による損害賠償の請求(415条)を主張することになる。

 2 Aからの反論

   贈与者は目的物の不存在について責任を負わない(551条1項)。
   ただし、不存在につき悪意であればこのかぎりではないが、(同項但書)
  本問では盗難により給付が後発的に不能になったのであり、贈与契約時において、Aは不存在について悪意であったとは言えない。よって、責任を負わない。

   また、書面によらない贈与であるから、いつでも撤回することによって、損害賠償責任を逃れることができる(550条)。
   ただし、履行が終わった部分については撤回が認められない(550条但書)。
 履行終了時はいつか → 動産については 引渡の終了時
 まだ終了していないので、贈与契約自体を撤回することによって、債務不履行責任を逃れることも可能である。



(2006/05/23)