平成2年1 日常家事債務・110条類推
【民法】 平成2年・第1問
Aは,夫であるBの事業が不振で家計にも窮するようになったため,Bに無断で,Bから預っていたBの実印等を利用し,Bの代理人としてB所有の土地をCに売り渡した。
1(1) Cは,Bに対し,その土地の所有権移転登記手続をするよう請求することができるか。
(2) Cは,Aに対し,どのような請求をすることができるか。Cの請求に対するAの反論についても含めて説明せよ。
2 Cが請求をしないでいる間にBが死亡した。A・B間には子Dがいたが,Dは相続を放棄した。この場合に,Cは,Aに対し,どのような請求をすることができるか。Dが相続を放棄しなかった場合には,どうか。
=構成=
一、 小問1(1)について
ア、 移転登記請求の前提として、Cは所有権を取得しているか。
Aの行為が代理として有効であれば、AC間の契約の効果がBに及ぶと、Cは主張できる。しかし、AB間には任意代理は成立していない。
土地の売買は、761条の日常家事債務にも当たらない(言い切る)。(761の趣旨は必要?)
よって、Aは無権代理であり、契約の効果はBに及ばない(113条)。
ただし、本人が追認(116)すれば、契約は最初から有効だったことになり、Cは登記移転を請求できる。
イ、 しかし、追認もされない場合、Cは表見代理の成立を主張できないか。
もともと夫婦間には日常家事債務についての法定代理権が存在するのだから、その代理権の範囲外の行為として、110条の適用を主張することが考えられる。
論証
【761条は基本代理権たりうるか】
【日常家事債務への110条の類推適用】
日常家事債務に含まれると信じるにたる正当な理由 実印を持っていたというだけでは正当な理由に当たらない
よって、表見代理は主張できない。
二、 (2)について
ア、 無権代理人本人への責任追求
では、Cは無権代理人自身の責任を追及できるか。
117条により 履行または損害賠償を請求することが考えられる。
イ、Aはそれに対し、Cには、無権代理であることを知らなかったことにつき過失があると主張して自己の責任を逃れることが考えられる。(117条2項)
あてはめ。通常であれば、無権代理人が本人の実印を持っていれば、善意無過失と言える。しかし、夫婦間であれば、実印の勝手に持ち出すことも用意であることは当然予想できるので、これだけでは善意無過失とはいえず、本人への確認を怠っていた以上、過失があると言える。
よって、Aは、Cの過失を主張して、無権代理人の責任を逃れることができる。
三、 小問2について
ア、前段について
事情、Bは追認も拒絶もしないまま死亡。
Dが相続を放棄したので、Aが単独でBを相続した。
結果、Aは無権代理人の地位に加え、相続によって、本人の地位も併有することになる。
Cの履行請求に対し、本人の地位によって、追認拒絶が出来るか
無権代理人が本人を相続した場合
【無権代理人が本人を相続】地位併存説 →信義則で制限
信義則により、本人の地位による追認拒否を認めるべきではない。
よって、CはAに対し、土地の引渡、登記移転を請求できる。
イ、後段について
Dも相続した場合、DとAは二分の一づつBを相続する。
では、CはAの持ち分である二分の一を取得できるか。
【共有物の処分権】
【共同相続の場合の追認権行使】
相続人が複数の場合、追認権は全員で行使しなければならない。
しかし、他の相続人が追認を認めている場合に、無権代理人が追認を拒絶することは、信義則上認めるべきではない。
よって、Dが追認に同意しなければ、CはAに対し追認を要求は出来ない。