平成12年2 財産分与と詐害行為
【民法】 平成12年・第2問
1  Xは、Yから甲土地とその地上建物(以下「甲不動産」という。)を代金2,000万円で買い受け、代金全額を支払った。当時、Yは、長年にわたって専ら家事に従事していた妻Zと婚姻中であり、甲不動産は、その婚姻中に購入したものであった。甲不動産につき、YからXへの所有権移転登記を経由しないうちに、YZの協議離婚届が提出され、離婚に伴う財産分与を原因としてYからZへの所有権移転登記がされた。
 この事案において、YZの協議離婚がどのような場合に無効になるかを論ぜよ。
2  上記の事案において、Yには、甲不動産以外にめぼしい資産がなく、Xのほかに債権者が多数いるため、Yは、既に債務超過の状態にあったものとする。また、YZが財産分与の合意をした当時、Zは、Yが債務超過の状態にあったことは知っていたが、甲不動産をXに売却していたことは知らなかったものとする。
 仮に、YZの協議離婚が有効であるとした場合、Xは、裁判上、だれに対してどのような請求をすることができ、その結果、最終的にどのような形で自己の権利ないし利益を実現することになるかを説明せよ。


=構成=


一、 小問1について

 1、協議離婚の無効原因

 【離婚意思の意義】
  夫婦は、その協議によって離婚できる(763条)。
  ここで、協議とは離婚意思の合致を意味するが、その意思とは、夫婦関係を事実上解消する意思を要するか、それとも、届け出をするという形式上の意思で足りるか。
 思うに、法的な婚姻の効果を望まない場合であっても、事実上の夫婦関係を消滅させる必要はなく、それを存続させるという意思は認められてよい。よって、ここでいう離婚意思とは、法律上の婚姻効果の消滅を目的として、届け出を出す形式的な意思で足りると考える。


 【協議離婚の無効原因】
 以上から、「協議」そのものが存在せず、届け出意思がない場合、つまり一方が独断で提出した離婚届は無効である。
 逆に、有効とされるには、法律婚の効果を放棄する意図があれば足りる。
 よって、方便のための離婚も有効であると考えられる。
 具体的には、@強制執行を逃れる目的、A氏変更をする目的、B生活扶助を受ける目的の離婚などは、実質的夫婦関係を消滅させる意図がなくとも、有効な離婚であると言える。

 2、本問での検討
  (1)本問では、「YZの協議離婚届が提出され」ているが、協議がなされておらず、両者に届け出意思の合致がなければ、離婚は無効になると思われる。
  (2)また、Yとしては、「財産分与を原因」とする「YからZへの所有権移転登記」が、自分の土地引渡債権に対する詐害行為であることを主張し、離婚自体が、離婚に仮託した財産処分行為であると主張し、離婚の無効を主張することも考えられる。
 しかし、その場合は、離婚とは区別して、財産分与のみを無効とできれば目的を果たしうる。身分行為は当事者の意思を最大限尊重すべきであるから、離婚の無効までは請求できないと思われる。(?)


二、 Xがなしうる請求について

 1、二重譲渡における背信的悪意者

  (1) 離婚が有効に成立し、財産分与がなされた場合、XとZは、甲不動産について、Yを起点とする二重譲渡の関係に立つ。そして、Zに登記がある以上、Xは劣後することになる。(177条)
 そこで、Xに対し債務不履行責任を追及することになるが、債務超過でありめぼしい資産のないYから、賠償がなされるとも期待できない。
  (2) そこで、Zに甲土地の引渡しを要求する手段としては、Zが背信的悪意者であり、177条の「第三者」にあたらない、と主張することが考えられる。
 【背信的悪意者排除論】(みじかく!)
 177条が対抗要件主義をとるとはいえ、信義則に反するようなものまで第三者として保護する趣旨ではないと言える。
  (3)本問のZは、債務超過状態は知っていたが、甲土地がXに譲渡されていたことまでは知らなかった。よって、背信的悪意者とはいえない。

 2、YZ間の財産分与の取消し

  (1)債務超過で、他にめぼしい資産もない状況下で、直前になしたXへの譲渡行為に明らかに反するような財産分与は、詐害行為であるとして取消せないだろうか。

  (2)【詐害的財産分与の取消し】
 夫婦の離婚に伴う財産分与には、@実質的な共同財産の清算、A離婚後の扶養料、B慰謝料、などの意義があり、保護する必要が高いので、第三者による取消しはよほどの事情がない限り認めるべきではない。
 財産分与が、債権者を詐害するかが問題となる場合であっても、その分与額が、財産分与の趣旨に反して不相応に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分と言える特段の事情がないかぎりは、詐害行為として取消すことはできないと考える。
  (3)あてはめ
  Zへの甲土地の分与が「不相応に過大」と言えるか。
  まず、「長年にわたって専ら家事に従事していた妻Z」との「婚姻中に購入した」甲土地は、そもそも共同でなした財産であるといえるから、その二分の一は、もともとZの持分であり、1000万円分については、@共有財産の清算と評価すべきである。
  そこで、残りの1000万円分が、A離婚後の生活扶助費用、B慰謝料として過大と言えるであるが、他にめぼしい資産のない状況での今後の生活の原資として、1000万円が過大であるとは言い得ない。
 よってYZの財産分与は詐害行為とは言えず、Xは取消すことができない。
 ただし、2000万円という金額は、Xが買い受けた金額であり、適正な評価額ではない可能性もある。適正な評価額が、これをはるかに上まわる場合に、上記ABの点で、「不相応に過大」と言える額になる場合には、Xはその範囲で、財産分与を詐害行為で取消しうる可能性もある。
 
3 以上からは、Xが自分の権利を実現する有効な手だては見当たらないことになる。
 そうすると、Xは保護されず、公平性に欠けるようにも思われる。しかし、高額の取引をする場合、相手の状況を多少調査する程度の注意を払うべきであり、代金の支払いと登記の移転を同時に行うなどの慎重さがあって然るべきであった。
 これらの注意を欠いて、漫然と代金を先払いしたXが不利益を受けることも、已むを得ない面があると思われる。


 以上!


 (2006/05/27)

(1000万円なら5年も生活できるかどうか……10億とかだと話は別だが……)
(実質的な考慮として、Yの分与のうち、1000万円なりを不相応に過分と認定すると、Xは1000万円分を価額賠償請求できることになる→でも金がないZ→土地を差し押さえして競売→安く買われて、結局、Zは路頭に迷うことになりかねない……)


 (よって、破産の申し立て??)
 (Xが悪徳土地ブローカーか何かで、甲土地を、Yの窮状につけ込んで不当に安く買い叩いた場合などには、妥当な結論……)
 (Xの保護はYの娘をソープに沈めるなどして図ることが妥(ry=ナニワ金融道的処理)