平成4年1 譲渡担保・賃借権の時効取得 
【民法】 平成4年・第1問
 Aは、Bに対して負う貸金債務を担保するため、自己所有の建物をBに譲渡して所有権移転登記をしたが、引続き建物を占有していた。ところが、Aが期限に債務を弁済しなかったので、BはAに対し、建物の評価額から被担保債権額を控除した残額を提供し、建物の明け渡しを求めたが、Aはこれに応じなかった。その後、AはBに対し、債務の弁済の提供をした上、建物をCに賃貸した。Cは、Aを建物所有者と信じて、長期間に渡りAに賃料を支払ってきたが、この間に、建物はBからDに譲渡され、その旨の登記がなされた。
 この場合における建物をめぐるAD間・CD間の法律関係について述べよ。



=構成=


一、 AD間の関係

 1、 まず、担保のために所有権移転登記しているから譲渡担保にあたる。

 2、【譲渡担保の法的性質】 ←結論を左右しないので軽く触れる。
               (担保権的構成)

 3、 弁済期が到来したのち、Bが清算金を支払っているので、譲渡担保は有効に実行され、Aは所有権を喪失した。(構成にかかわらない)
    なお、その後の、Aからの弁済は非債弁済となり、法律的な意味を持たない。

    よって、所有権はABDの順で移転し、現在はDに所有権がある。

 4、担保の実行による所有権喪失後も、Aは引き続き建物を占有し、賃貸に供している。これにより、時効取得の成否が問題となる。
 まず、Aは自分が弁済を済ませたことで、所有権を失っていないと信じていたので、善意占有と言える。また、賃借人に建物を貸して賃料を得ていたので、外形的にも所有の意思があると言える。また、賃貸に供していたのであるから、平穏公然と占有していたといえる。
 よって、所有権喪失時に、善意・無過失と言えれば10年、そうでなければ20年の経過によって、所有権を時効取得する。(162条)

 5 なお、時効が成立しなかった場合には、Aは訴え提起の時より悪意占有者となる(189条2項)。そして、訴え提起時からの賃料相当額を不当利得としてDに返還する義務を負う(189条1項、703条)。



二、 CD間の関係

 1、  Aが所有権を失っていた場合、ACの賃貸借は他人物賃貸借となり、真の所有者Dに対抗できない。

 2、 【賃借権の取得時効の可否】肯定説

  (1)時効成立前に、Dが所有権を取得し、明渡請求したばあい、
     時効成立によって、CはDから賃借権を得ることができる。

  (2)時効成立後に、Dが所有権を取得し、明渡請求したばあい、
     すでにBから時効取得していた賃借権をDに対して主張できる。

   引渡がなされているので、登記がなくても、Cは賃借権をDに対抗できる(借地借家法31条1項)


 以上

 (2006/05/25)



 (備考、Aが所有権を失う場合、Bに対して弁済した額を不当利得として返還請求できると思われる……)