平成4年2 債権者取消権と相対的取消
【民法】 平成4年・第2問
 債権者取消権における「相対的取消(取消の相対効)」とはどういうことか、どうしてそのような考え方が出てきたのか、そのような考え方にはどのような問題があるかについて論ぜよ。

 ★難問

 =構成=


一、 相対的取消しとは

 債権者取消権においては、受益者または転得者に対し責任財産の返還を請求するに必要かつ十分な範囲で、債権者を害することを知ってなされた詐害行為が、取消される。
 この詐害行為の取消しは、121条の取消しのように絶対的効力を有せず、債権者と受益者ないし転得者との間でのみ効力を生じるとされている。これを相対的取消しという。

 
二、 相対的取消しという考え方が出てきた理由

 1、 【詐害行為取消権の法的性質論】 →折衷説
   ・特に、絶対効を有すると、取引の安全を害する、という観点

   折衷説から……取消権制度の目的から考えて、その目的達成に必要な範囲に限定して取消しの効果を認めようとする考え方



三 相対的取消しの問題点


 1、訴訟法上の効果との混同

 債権者取消権は、裁判によって行使されるのであり、その訴訟法上の効果は当事者間にのみ及ぶ。しかし、実体法上の効果も相対的であると考えるのは、実体法上の効果と訴訟法上の効果とを混同している、という批判がなされる。

 (反論:有効になされた行為をあとから取消すことは、私的自治への重大な例外であることから、この効力範囲を必要最小限に止めることは無意味ではない。)

 2、強制執行の根拠になりえないという疑問

 債権者Aと、受益者Cの間で、債務者BからCへの譲渡行為が、相対的に取消されると、その行為は、AC間においてのみ、相対的に無効となる。従って、それ以外の関係、BC間、AB間においては、その譲渡行為が依然有効であることになる。
 すると、AB間においては、譲渡された財産の所有権は、なおCのもとに帰属していることになり、Aはこの逸出財産をBの所有物として、強制執行を行うことができないのではないか、という疑問が生じる。

 (反論:返還を受けるのは、債務者の一般財産であるから……無理がある……)


 3 その他、相対的取消しと言いながら、逸出財産を債務者名義に戻すなら(例えば、不動産移転登記の抹消登記)、債務者にも効果が及んでいるとも言え、絶対効が生じているのではないか。
   また、取消された受益者が、債務者に追奪担保責任を問えるのであれば、絶対効を認めたのと変わらない、という批判もある。
   また、相対的取消しという考え方には、そもそも法文上の根拠がない、などの批判もある。

 (その他、「遅い者勝ち」になる=あとから詐害行為取消権を行使したものが勝つことになり公平に反するのではないか……など、)



(結論:判例通説の主張する「折衷説」+「相対的取消」理論は、理論面、実質面での疑問に明確に答えているとは言い切れない……)


 (2006/05/27)