平成6年1 債権の相対性と債権侵害に対する保護
【民法】 平成6年・第1問
 債権は相対的な権利であるといわれている。そのことと、債権が第三者により不法に侵害された場合に、債権者が、その第三者に対して、不法行為責任を追及し、あるいは侵害行為の差止めを請求することができる場合もあるとされていることとの関係について論ぜよ。



=構成=


一、 債権の相対性

 1、物権が絶対的であるとは、すべての人に対して対抗できるということである。絶対性は、物支配についての排他性を有することから生じる。
   それに対し、債権は、特定の債務者に特定の給付を請求できるのみであり、その意味で相対的な権利である。
   従って、債権は債務者の不履行によって侵害されうるのみであり、排他性がない以上、第三者による侵害は論理的に有り得ないと、かつては考えられた。

 2、しかし、債権が相対的であることと、債権者の弁済を受ける権利が法的に保護を受けるかどうかとは、別問題であり、関係がないと思われる。
 債権も権利である以上、不可侵性を有する。それは物権、債権に共通するものであり、その「権利」への「侵害」は不法行為の成立要件を充たす。(709条)




二、債権に基づく不法行為責任の追及

 1、債権への侵害に対しては、上記の理由から、不法行為に基づく損害賠償請求ができる。(709条)
   しかし、債権は目に見えない権利であり、通常、公示性がない。
   また、非排他的な権利であるから、複数の債権が同時に成立することもありえ、自由競争原理が働くので、物権の侵害とは違う考慮が要求されることになる。

  2、そこで、どのような要件で侵害を認めるべきか。また、その要件と、債権の相対性はどのような関係を持つか。

   (1) 非公示性による限定
      債権は通常、公示性を持たない。
      よって、第三者がその存在を知らない場合もある。この場合、結果的に侵害が発生していても、不法行為性がないと思われる。
 従って、債権侵害が不法と言えるためには、第三者が債権の存在を知っているか、容易に知り得た場合に限られる。そして、債権の存在を知らなかった場合には、通常、過失もないと言える。
 つまり、債権侵害が不法行為と言える場合は、故意・重過失に限られることになると思われる。(ただし、侵害の態様によっては一般不法行為原則に従う場合もある)
 これは、709条が、「故意又は過失」による権利侵害を補足しているのに対して、範囲が限定されていると言える。 
 この非公示性から導かれる限定は、債務者以外の第三者は通常は債権の存在を知らないという事情、すなわち債権の相対性とも関係すると思われる。 (←本当か?)
  
   (2) 自由競争原理による限定
      債権は排他性を持たないので、同一債務者に対する、同一内容の債権が複数成立しうる。その場合、どちらを満足させるかは債務者の意志に掛かっており、自由競争が許されることにつながる。
 従って、この場合の第三者による同一内容の債権取得は、通常は、債権の侵害とはいえないと考えられている。
 つまり、同一債権の取得が債権侵害だと言えるためには、公序良俗違反や、強行法規違反など、違法と評価される場面に限られ、自由競争の範囲内では侵害にあたらないと考えられることになる。
 この要件は、債権の非排他性から来るものであり、債権の相対性とは直接には関係がないと思われる。

 
(? 非排他性と、相対性が関係するといえる範囲で関係がある??)
(「債権」が債務者にしか対抗できない(=相対効)のは、人支配につき排他性を有しないから??? な、ワケない……)
 (絶対性と排他性の関係や如何に??)



三、 債権に基づく妨害排除請求

 1、債権によって差止請求(妨害排除請求)ができる場合とは
  一回的給付を目的とする通常の債権の場合、そもそも妨害排除は問題になり得ない。
  排除が可能なためには、その債権が継続的な利用を目的とした利用権的債権であることが前提となる。すなわち、賃貸借の場合に、差止請求は意味を持ち、認められることになる。

  ★【賃借権による妨害排除請求権の法的構成】
     【債権者代位権の転用】
  ★【賃借権の物権化】 (重要)(難解)(物権化の内実とは??)   
   【二重賃借権の場合と、無権限者による侵害】
  


 2、 相対性との関係
   賃貸借とくに、借地権、借家権に妨害排除権が認められる理由は、それらの利用権が、所有権から使用収益権能を債権的に借り受けたものであり、借り受けた使用収益権そのものが物権的な絶対性を持つからである。
 不動産賃借権が、債権としては例外的に登記によって対抗力を得ることができるのは、物権的に保護されていることの現れである。
   しかし、これらの不動産利用権は債権として構成されているため、契約自由の原則があり、所有者には登記協力義務はない。その結果、不動産賃借人の地位は弱く、社会問題の原因となってきた。
 そこで、不動産賃借人を保護する目的で、借地借家法などの特別法が定められて、権利の内容が法定され、物権的な権能が与えられて保護されるに至っている。
   例えば、登記がなくても、借地権の場合は、建物の保存登記により第三者に対抗できるし、借家権の場合は、建物の引渡を受けたことによって第三者に対抗できる。これらは、特別法によって与えられた物権的対抗力である。
   つまり、これらの賃借権による妨害排除請求が可能なのは、賃借権に物権類似の絶対性が付与された結果、相対性が弱まっていることと関係があると言える。


 以上


 (難しい……再現不能……もう出題されない……)
 (2006/05/26)