平成7年1 不法投棄 撤去・事務管理
【民法】 平成7年・第1問
 飲食店経営者のAは、不要になった業務用冷蔵庫を、知人のBに頼んで破棄してもらうことにした。Aが、店の裏の空き地にその冷蔵庫を出しておいたところ、近所の住人Cも、不要になった冷蔵庫を破棄したいと思い、勝手にAの冷蔵庫のそばに自分の冷蔵庫を捨てた。Bは、トラックで空き地に乗り付け、そこに置いてあった2つの冷蔵庫を回収して、Dの所有する山林に不法に投棄した。これを発見したDは、付近が近所の子供達の遊び場になっているため、2つの冷蔵庫に各5万円の費用を費やして危険防止に必要な措置を講ずるとともに、A、Cをつきとめた。なお、Bの所在は、不明である。
 この場合に、DがA、Cに対してどのような請求ができるかについて、A、Cからの反論を考慮して論ぜよ。



=構成=

一、 提起 Dは、不法投棄された二つの冷蔵庫により、自分の土地を侵害されているので、撤去を請求出来るか。また、危険防止の処置のため費用を費やしたので、その費用を探し出した所有者に請求できるか。以下に検討する。

二、 冷蔵庫の撤去について

 1、Dは、冷蔵庫の持ち主A、Cに対し、撤去を求めたい。方法としては、占有保持の訴え(198条)と、所有権に基づく妨害排除請求が考えられる。物権的請求権については直接規定した条文はないが、物に対する円満な支配を維持するため当然に認められる。

 2、Dからの請求に対し、ACは、所有権を放棄したため、撤去義務がないと主張することが考えられる。
 所有権の放棄は、単独行為として、通常は所有者の意思のみで行いうる。
  (1)しかし、Cはもともと冷蔵庫をAの店の裏の空き地に不法投棄している。このような処分は権利濫用(1条3項)として認めるべきではない。かかる所有権の放棄は、公序良俗に反し無効(90条)である。よって、Cは所有権の放棄をDに対抗できない。
  (2)これに対し、Aは、冷蔵庫の廃棄処分を適法にBに依頼したのであり、Bによる不法投棄は予想できないものであった。そのことからすれば、Aの所有権の放棄は認められるようにも思われる。
 しかし、現にAのものであった冷蔵庫がDの土地に不法投棄されている以上、所有権の放棄が有効に完了したとは言いがたい。よって、Aの所有権放棄の主張は信義則(1条2項)に反し、認められない。

 3、さらにA、CはDの請求に対し、物権的請求権は認容請求権に過ぎず、行為請求権ではないから、A、Cに対し撤去までは請求できないと主張することも考えうる。
 しかし、
 【物権的請求権の法的性質】行為請求権→撤去を請求できる。
 以上から、DはACに対し、冷蔵庫の撤去を請求できる。
 


三、事務管理費用の償還請求
 1、DはACの所有物が、子供に危険を及ぼすことを防ぐため、適切な処置を施している。これは事務管理(697条)であるから、それに掛かった費用の償還をACに対して請求すると考えられる(702条)。
 2、ACからの反論
  (1) これに対し、ACはすでに所有権を放棄している、という主張が認められないことは上記のとおりである。
  (2) さらに、ACは、Dの危険防止措置が、ACの利益を目的としたものでないこと、つまり「他人のため」(697条)にあたらないと主張し、事務管理の成立を否定することが考えられる。
   しかし、現に、ACらの冷蔵庫によって危険な状況が実現していた以上、子供が怪我をすることにって、ACが不法行為責任を負う可能性もあったのであり、危険防止措置は客観的に見てACの利益にかなうと言える。
   また、Dの目的は一義的には子供を危険から守ることにあったとはいえ、それは裏からいえば、誰かが子供に危害を加えてしまうことを防止しようとすることでもあり、利他的意思が存在すると言える。
   逆にACらが、子供への危険の防止を望んでいなかったと主張することは、信義則に照らして認めるべきではない。
 3、以上から、Dによる事務管理は成立しており、DはACに対し、費用償還請求ができる。


四、不法行為に関して

  1、 以上の検討から、Dは冷蔵庫の撤去と、危険防止措置のための費用をACらに請求できることになる。
 が、以上とは別の方法として、不法行為責任を追求することは可能であろうか。
 そもそもDの土地に冷蔵庫を不法投棄したのは直接的にはBであるから、ACは不法行為責任を負わないと言えるであろうか。
 以下、検討する。

  2、 Cにとっては、その冷蔵庫がBによって不法投棄されることは予期できないことであった。しかし、そもそもCがAの店の裏の空き地に冷蔵庫を放置しなければ、Dの土地に不法投棄されることもなかったのであるから、Cは、この不法投棄の結果にたいし過失があると言える。よって、過失によって他人の権利を侵害したと言えるので、709条の不法行為責任を負う。
 また、A空き地への不法投棄自体も不法行為を構成する。このCの不法行為と、Dによる不法行為には、客観的な関連が認められるので、共同不法行為も成立する。(719条)(*)

  3、 Aは、Bに冷蔵庫の廃棄を適法に依頼しており、また、AにとってもBの不法投棄は予期し得ない事情であった。
  この点、AB間に、使用、被使用関係が認められるならば、使用者責任を問いうる(715条)。
  しかし、Bは単なる知人であるから、使用関係はない。
  この場合の事務処理の依頼は、委任(643条)、または、廃棄を事実行為と考えれば、準委任(656条)であると思われる。
  とすれば、Aは、受任者であるBが不法行為によって第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない(716条類推)と考える。
  以上から、Aは不法行為責任は負わない。


 以上




 (*)本来は、共同不法行為の成立要件という論点があるが、流した(笑)

 (この構成は、どの参考答案とも違う。パラダイム、緑の本、LEC……だが、AよりもCがズルい奴、という価値判断を反映させているものは他になかった。
 この構成が、ACの差をハッキリ打ち出しているのに加えて、もっとも具体的に妥当な結論を出している、と思われる)(本当か?)

 (2006/05/24)