平成6年2 組合・選定当事者30条・任意的訴訟担当
【民訴】 平成6年・第2問
民法上の組合である甲組合の組合規約では、業務執行組合員乙がその業務執行に必要な一切の裁判外および裁判上の行為をすることができる旨が定められている。
1 業務執行組合員乙は、甲組合に帰属する財産に関する訴訟の原告または被告となることができるか。
2 右の (1) につき業務執行組合員乙が原告となることができるとした場合において、組合に帰属する財産に関する訴訟の係属中に原告である業務執行組合員乙が死亡したときは、乙の死亡の事実は、この訴訟の進行にどのような影響を及ぼすか。
=構成=
一、小問1について
1、 甲組合の業務執行組合員は、その規約により、「業務執行に必要な一切の裁判外および裁判上の行為」が出来る旨の授権を受けている。かかる業務執行組合員である乙は、その地位によって組合業務に関する包括的な代理権を有しており、法令上の訴訟代理人であると言えるから、組合の名で全員のために訴訟を追行することができる。
2、 では、選定当事者(30条)として、訴訟担当することはできるか。
この点、30条の規定は、代表者の定めのある社団について当事者能力を認めた29条の規定に照らして、組合自体に当事者能力が認められなかった場合に、補充的に機能する規定であるから、29条の当事者能力が組合に認められる場合には、適用する必要がないことになる。
そこで、組合が29条に言う「社団」として当事者能力を認められるかが問題となる。
そもそも29条の趣旨は、事実上の紛争の主体を、訴訟上も当事者として扱うことが、紛争解決のために最も合理的であるという点にある。その点で、組合は社団と何ら変わるところがない。
よって民法上の組合であっても、代表者の定めがあるものについては、29条の「社団」として、当事者能力を認めることが出来ると考える。
こうして組合に当事者能力が認められる以上、選定当事者という手段による必要はないが、とはいえ、あえて選定当事者という手段によることも出来ないことはないと思われる。
もっとも、選定当事者たるには、当事者全員からの個別の授権が必要であり、多数決による選定が出来ないなど、手続きが煩瑣であることから、あえてこの方式による実益はないと思われる。
3、では、法定された任意的訴訟担当である選定当事者ではなく、一般的な任意的訴訟担当によることは可能か。
まず、多数の当事者の中から一人を選んで訴訟追行させることは、被担当者及び相手方当事者にとって便宜であり、また訴訟の審理・進行が簡明となって裁判所にとっても望ましいことから、任意的訴訟担当を広く認めるべき理由がある。
しかし、無制限に認めてしまうと、弁護士代理の原則(54条)、訴訟信託の禁止(信託法11条)によって、弁護士資格のない三百代言による依頼者利益の侵害や、審理の混乱を防止し、司法への信頼を守ろうとした趣旨が没却されるおそれがある。
よって、かかる弊害のおそれがなく、かつ、任意的訴訟担当を認める合理的な必要があるという要件を満たす限りにおいて、これを認めることが出来ると考える。
この点、本問の業務担当組合員については上記の弊害が生じるおそれはなく、また、規約によって訴訟行為についても包括的な代理権を授与されているので、訴訟担当を認める合理的必要性も認められる。
4、以上から、乙は、法令上の訴訟代理人あるいは、任意的訴訟担当として、甲組合の財産についての訴訟において原告または被告になることができる。
二、小問2について
乙は、法令上の訴訟代理人、または任意的訴訟担当という立場で、原告として訴訟追行している。この乙が、死亡した場合、訴訟の進行にいかなる影響を及ぼすか。
この点、124条1項5号が、かかる代理人または訴訟担当者の死亡が、訴訟手続きの中断事由に当たると定めている。そして、この場合、同一の資格を有するものが訴訟を受継することになる。
これは、対立当事者双方の手続保障を確保しようとする、双方審尋主義の発現である。
本問の場合、乙の死亡により、訴訟手続きは一時中断され、甲組合が新たに業務執行組合員を選出し、その者が訴訟手続きを受継することによって手続が再開されることになる。
以上