★(重要・再検討) 平成7年1 処分権主義の訴え提起における現れ
【民訴】 平成7年・第1問
 処分権主義は、訴えの提起の場面において、どのように現れるか。


=構成=

一、処分権主義の定義

 1、定義
処分権主義とは、@紛争解決の手段として訴訟を利用するか否か、A何を訴訟物として請求し、またどの範囲で請求するか、またB判決によらないで訴訟を終了するか否か、という点について当事者が自由に決定できるという建前を言う。

 2、意義、根拠
私法実体法上、私人の権利関係においては私的自治の自由の原則が妥当するが、この原則を訴訟法のうえに反映させたものが処分権主義である。民事訴訟は、私法上の権利義務について争うものであり、当事者の意思を最大限保障すべきであることから処分権主義が採られる。

 では、訴えの提起の場面において、この処分権主義はいかなる形で発現するであろうか。

二、訴えの提起

 1、提起なければ裁判なし
(1)裁判所は、当事者からの提起がなければ、自ら職権で訴訟を開始し、判決を下すことは出来ない(不告不理の原則)。
訴訟を開始し、訴訟によって紛争解決をするかいなかは、当事者の自由意思に任される。これは、訴訟開始についての処分権主義の現れである。
(2)また、同じ観点から、当事者同士での、紛争解決には訴訟を利用しないという不起訴の合意も有効であると考える。
もっとも、契約当時予想も出来なかったような突発事態においても提訴を一切認めないような包括的絶対的な不起訴の合意や、当事者の一方だけは不起訴出来ないとする不平等な合意は、公序良俗(民法90条)に反し許されないと考える。

 2、例外にあたる場面
ただし、例外として、訴訟費用の裁判(67条、258条)と、仮執行宣言の裁判(259条)は、当事者の申し立てがなくても裁判所が職権ですることができる。
 これらは、当事者が申し立てたことによって行われた裁判に付随して、裁判制度維持という公益目的でなされるものであることから、職権で行うことが認められている。


三、審判の対象

 1、 原告は、訴状を提出して訴えを提起するにあたり、その訴状に、「請求の趣旨及び原因」(133条2項)を記載して、訴訟物を特定する。そして、裁判所の判決は、この当事者の申し立てに拘束される(246条)。
これは、訴訟の提起にあたって、何を請求の目的物とするかを当事者が自由に決定できるとする処分権主義の現れである。
これにより、何を訴訟で争うのかの内容について、当事者の意思を最大限尊重することになると共に、提訴の時点でその内容を限定することにより、被告にとって防御範囲を明確に把握し、不意打ちになる危険を防ぐことができる。

 2、訴訟物の決定にあたって、当事者の意思を尊重する処分権主義の観点からは、請求したい全額のうち、まず一部だけを請求するいわゆる一部請求も当然認められることになる。

 【一部請求の可否と既判力の範囲】
 一部請求とは、数量的に可分な債権について、その一部のみを裁判上請求することを言う。これは、訴訟物の範囲を決定するにあたっての当事者の処分権の現れとして当然に認められる。
 この一部請求は、例えば損害賠償請求訴訟などにおいて、損害額の特定が困難であることや、試験訴訟としての一部訴訟を認めることが費用の乏しい原告に訴訟機会を保証する意義があることからも認める実益がある。

 
 では、この場合、訴訟物の範囲は請求された一部分なのか、それとも残部を含む全体となるのだろうか。
 思うに、原告の処分権として請求の範囲を決定する権限が認められることから、実際に請求された一部のみが訴訟物であると考える。
 よって、判決の既判力は残部には及ばず、残部についてのちに提訴することが出来る。

 もっとも原告による恣意的な訴訟物の分断を認めると、被告に二重応訴の不利益を与えることになり妥当ではない。よって、原告によって、一部請求であることが明示された場合にのみ、その一部分だけが訴訟物となると考える。



四、訴訟類型の指定

 1、原告は、訴訟を提起するにあたり、給付訴訟、確認訴訟、形成訴訟の各訴訟類型のどれによって、自らの権利を実現するかを選択することができ、裁判所は、当事者の申し立てと異なる類型の判決を下すことができない。これは、どのような訴訟類型を選択して提起するかについての処分権主義の現れである。


 2、また複数の請求を併合して提訴する場合、単純併合とするか、選択的併合とするか、予備的併合とするかも原告の意思に任される。
この場合、予備的併合がなされたときに、裁判所が主意請求につき判断を下さずに、予備的請求について判断することは許されない。
このこともまた、訴訟物の指定についての処分権主義の現れである。



以上

 (2006/06/06)



 2、例外が許される場面? 一部認容判決× 判決は訴え提起の場面ではない