平成7年2 表見法理の適用可能性(否定説)
【民訴】 平成7年・第2問
 甲は、株式会社乙の商業登記簿上の代表取締役丙を乙の代表者として、乙に対し、売買代金の支払を求める訴えを提起した。丙は、乙の代表者としてこの訴状の送達を受け、口頭弁論期日に出頭して、甲の請求を争った。丙は、訴訟の審理がかなり進んだ段階で、自分は乙の代表取締役に選任されたことはなく、乙の真実の代表取締役は丁である旨を口頭弁論期日において陳述した。右の場合における訴訟法上の問題点および裁判所が採るべき措置について論ぜよ。


=構成=

 ・手続きの流れに沿って構成!


一、問題提起  本文訴訟の被告は乙 丙はその代表取締役として訴訟を追行している
 だが、丙は、「自分は乙の代表取締役に選任されたことはなく、乙の真実の代表取締役は丁である」と陳述している。
 この陳述が真実ならば、既になされた訴訟追行が真の代表者によってなされていないことになり、訴訟要件を欠く。
 よって乙に効果帰属しないこととなり、すべて無効となる(裁判所は訴えを却下する)のが原則。
 
二、 1、訴訟要件の有無は裁判所が職権で調査する職権調査事項であることから、まず、裁判所は丙の陳述の真否を調査する。
 そして、丙の陳述が虚偽であり、丙が代表取締役であった場合には、既になされた訴訟行為は有効に乙に効果帰属し、裁判所は審理を続行できる。
 2、逆に、丙の陳述が真実であった場合、訴訟係属がなかったことになり、既になされた訴訟行為は無効であり、乙に効果帰属しない。
 もっとも訴訟経済の観点から、ここで訴えを棄却するのではなく、甲に対して補正を求め(34条1項、137条1項)、そのうえで、乙の真の代表者たる丁に訴状を送達し、丁に追認(34条2項)を求めることができる。丁の追認があれば、既になされた訴訟行為は有効となり乙に効果帰属するので、裁判所は審理を継続できる。


三、 1、では丁が追認しない場合は、丙がなした訴訟行為はすべて無効とすべきか。本問のように「訴訟の審理がかなり進んだ段階」で、すべてを無効とするのは訴訟経済上問題であり、相手方甲の訴訟上の地位をすべて奪うことになり当事者の公平に反する。
そこで、実体法上の表見代理の規定を類推して、既になされた訴訟行為を有効とし甲を保護することが考えられるが、それは認められるか。
 【表見法理の類推可能性】が問題となる。
 (この点)、登記を怠った会社を保護するために、原告に訴訟手続きをやりなおさせるのは、酷であり公平に反するとも言える。
 また、36条1項が、法廷代理権の消滅は相手方に通知しなければ主張できないとして相手方を保護している趣旨からも、表見代理規定(民法109、112条、商法12、14条等)の類推を認めるべきであるとも思われる。


 しかし表見代理法理を類推するとすれば、原告の善意悪意により類推の可否が左右され、法的安定性を欠く。
 そもそも表見法理は取り引きの安全を図るための制度であり、手続きの安定性を重視する訴訟行為に類推すべきではない。この理は、商法24条において表見支配人が有すると見なされる権限から、訴訟行為が除外されていることからも明らかである。 (否定説)


 →ただし、登記を信じた原告を保護すべきである……
  よって、登記の訂正を怠ったなどの過失がある会社は、既に行われた訴訟行為の追認を求められた場合に、信義則上これを拒めないと考える。(?)


 (追認の結果、敗訴した場合、無権代理人丙にたいし、責任追求? また、控訴上告によって権利の回復を図るべき……登記訂正を怠った会社はそれくらいの不利益を被っても已むを得ない……)


 以上



=関連条文=

第三十四条  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
2  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

第三十七条  この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。