平成10年1 境界確定訴訟について
【民訴】 平成10年・第1問
境界確定訴訟について論ぜよ。
=構成=
一、
【境界確定の訴えの法的性質】
【定義】 境界確定訴訟とは、隣接する土地の境界線に争いがあり、裁判所の判決による境界線の確定を求める訴訟を言う。
二、
【法的性質】 境界確定訴訟の法的性質につき争いがある。
この点、境界を明らかにすることにより、土地所有権の範囲を確認する確認訴訟であるとする見解があるが、妥当ではない。
なぜなら、境界線は地番と地番の境界を示すため、地積測量図などの公図によって公的に管理されているものであって、私人の自由意思による処分を許さない性質を有するからである。境界線は客観的な資料に基づき決定されるべきものであり、当事者の主張や、立証責任によって左右されるべきではない。
よって、境界確定訴訟は、裁判所に対して境界の確定という法律関係の変動を求める形成訴訟の性質を持つと言える。
しかし、その形成要件は実体法規によって定められているわけではなく、裁判所が調査を通じて裁量的判断で決定するものであるから、実態としては非訟事件に近く、これを形式的形成訴訟と考えるのが妥当である。
三、 境界確定訴訟の特質
以下、その特質について述べる。
1、処分権主義の制限
(定義から)処分権主義とは、訴訟の開始、訴訟物およびその範囲、訴訟の終了について、当事者が自由に決定できるという建前を言うが、境界確定訴訟では、公的な性質を持つ境界を客観的に確定するという要請から、この処分権主義が制限される。
訴えが提起されない限り訴訟が開始しない、という点では、私人間での権利義務の存否を争う通常の訴訟同様、処分権主義が適用される。
しかし、境界線の公的性質から、訴訟物である境界線の範囲は、当事者の主張しない範囲に及びうる。
また、当事者間の妥協や合意によってそれを決定することは許されず、必ず裁判所が客観的な資料に基づき裁量的判断によって確定する必要がある。よって、和解や請求の放棄、認諾による紛争終結は認められず、終了については処分権主義が排除される。
また、控訴審における不利益変更禁止の原則(304条)も排除されるので、裁判所は不服申し立ての限度に拘束されない。控訴審が正しいと認める以上、控訴人に不利な判断でも可能である。
2、弁論主義の排除
(定義から) 弁論主義とは、訴訟資料の収集を、当事者の権能であり責任であるとする建前を言う。
私人間の権利義務に関する紛争の解決を目的とする通常の民事訴訟の場には、訴訟追行上も私的自治の原則を尊重する見地から、事実や証拠(訴訟資料)の収集や提出も、当事者の権能であるとして、その責任の元に置くことが望ましいことから、原則として弁論主義が適用される。
しかし、境界確定は公的な意味あいが強いことから、この弁論主義が排除され、基本的に、職権探知主義が採用されることになる。
(ア)(第1テーゼ) 裁判所は、当事者の主張の有無に関わらず、職権で、公図の内容を精査し、現況の調査をし、またそれらを照合するなどして、客観的な資料に基づいて境界線を確定する。(客観的資料から明らかにならないときは、常識に訴え最も妥当な線を見いだし、これを境界と定めるのが妥当である)
また、当事者の主張がないために、真偽不明であるとして、請求を棄却して訴訟を終了することは出来ない。裁判所は、何らかの境界線を必ず確定する必要がある。
(イ)(第2テーゼ) 裁判所は、当事者間に争いのない境界線の部分についても、職権による調査の結果、それと異なる境界線が客観的に正しいと判断して、当事者の主張と異なる境界線を確定できる。
(ウ)(第3テーゼ) 裁判所は、当事者の申し立てた資料の他、職権によって調査した資料をも利用することができる。そのようにして収集した公図などの資料、現地の状況、残存する境界標の位置などを総合的に利用して、合理的な裁量により境界を確定することになる。
(なお、境界確定訴訟は、直接には所有権の帰属を決定するものではないため、時効取得の抗弁の成否は、境界確定の判断に影響しない)
四、 境界確定訴訟の当事者適格
境界確定訴訟においては土地所有権ではなく、公的な意味を持つ境界の位置が訴訟物であるので、誰に当事者適格を認めるかが問題となる。
これを定めるにあたっては、誰に訴訟を追行させ、誰に本案の判決をすることが必要かつ有意義であるか、という観点から判断すべきであり、よって、境界確定に最も密接な利害関係を持つ隣接地の所有者に当事者適格を認めるべきである。
なお、隣接する甲乙地の境界が争われる場合で、甲地のうち境界の全部に接する部分を乙地所有者が時効取得したとしても、甲地所有者は、境界を争う隣地所有者であることに変わりはなく、当事者適格を失わない。当事者適格は時効成立とは切り離して判断される。
もっとも、甲地全部が時効取得された場合には、隣地所有関係が消滅し、当事者適格も失われると考えられる。(最判平成7、7、18)(伊藤p129など)
以上
=参照=
百選T p158、231、232 (面白い)
伊藤眞 p129