平成11年1 債務不存在確認の訴え 
【民訴】 平成11年・第1問 答案を見る
 債務不存在確認の訴えの特質について論ぜよ。


=構成=

一、定義 債務者である原告が、債権者である被告に対し、一定の債務を負っていないことの確認を求める訴訟。
(例示)たとえば、金銭債務の債権者に弁済をしたにもかかわらず、なお債権者から弁済請求が続く場合に、そのような債務を負っていないことの確認を求める訴え。


 特徴は、@確認訴訟であること、 A債権者が債権の存在を主張するのとは逆に、債務者が、債権者からの給付請求を逃れるために債務の不存在の確認を求める点に特徴がある。

二、 債務不存在確認訴訟の問題点と、要件


 1、当事者からみた特質

(1)通常、被告として受動的に裁判にかかわることの多い債務者が、自ら積極的に訴えを提起し、能動的に債務不存在を主張する点に特質がある。
・この確認がなされることによって、債務者である原告は、しつこく続く弁済請求や、債務額についての争いから開放されることが期待できる。
(2)被告側である債務者は、応訴を強制されることになる。
ところが、債権の存在を立証する責任を負うのは、債権から利益を得る被告側であることから、立証の準備が十分に整わない段階で応訴を強いられることになると、被告側に不利になるということが考えられる。
そこで、債務不存在確認の訴えは、その必要性が高くないときは認めるべきではないと考えられる。債務不存在確認の請求が先制攻撃的な濫訴にあたると言える場合には訴えの利益を否定して棄却すべきである。
具体的には、債権者が債権の存在を主張しているという事実だけでなく、その請求により債務者の法的地位にどのような危険・不安が生じているかを原告側が示す必要があると考える。
このようにして、確認の利益を厳格に判断すべきである。

 2、請求物からみた特質

(1)確認の訴えにより、確認判決がなされることになるが、これは具体的な給付を命じたり、権利関係に変動をもたらして新たな法的地位を形成したりするものではなく、単に、権利義務の存否を確認するにとどまるものであることから、紛争解決への実効性があるのかどうかも問題になる。
このことからも、権利義務の存否を確認することが紛争解決に役立つという確認の利益があることが要件とされる。

(2)給付の訴えの場合、原告側が債権の額を明示しない場合、これを補正しなければ訴えが却下されることになる。これに対し、不存在確認の訴えの場合は、債務額を明示しない訴え提起が多く、また、そのような提起が許されている。
その根拠は、以下のとおりである。
債務者側は債務額を把握することが困難なことが多いことから、それを要求すると債務者に酷であること。
訴訟物の訴額を明確にする理由は、それによって裁判所に、訴訟の対象を明示し、かつ、被告に対しても、防御範囲を明確にすることによって、不意打ちになることを防ぐ点にあるが、不存在確認の場合、請求の原因が明示されていれば、そこから訴額を特定することが可能であり、被告である債権者側にとっても防御対象が明示され、不意打ちになるおそれはない。
このことから、債権額を明示しない程度の請求の特定であっても許容される。
債権額の上限を示さない場合は、審判対象が特定されていないとも思えるが、「何年何月何日の交通事故による損害賠償債務」という形で請求原因が明示されていれば特定として足りる。

(3)一部不存在確認の場合、1000万円の債務全額の不存在を主張する場合は、1000万円の債権全部が訴訟物となる。これに対し、1000万円のうち200万円を越えては存在しないという一部不存在確認の場合、訴訟物は残りの800万円となる。

 3、一部認容判決

 (1)上記の例で、1000万円の内、200万円を越えて存在しないという確認の訴えに対し、裁判所が、「300万円を越えて存在しない」と判決した場合は、訴訟物800万円のうち、700万円を一部認容したことになり、そのような判決は許される。
 逆に、「1000万円のうち、100万を越えては存在しない」という判決は、800万円の訴訟物を、裁判所が職権で900万円に増額していることになり、原告の申し立てた範囲を越えるので246条違反となり許されないことになる。

(2)なお上記の例で、原告が当初、自認していた1000万円のうちの200万円について、さらに債務不存在の確認を求める訴えを提起するが出来るだろうか。
その200万円はもともと訴訟物ではなく、そこに既判力が及ばないので、訴え提起は許されるとも思える。
しかし、一旦自認した部分について、裁判後に否認することは、信義則に反する(2条)と言えるので、許されないと考える。


以上