平成7年1問 設立・財産引受・開業準備行為
【商法】 平成7年・第1問
 Aが株式会社の発起人として会社の設立中にした行為に関して、次の問に答えよ。
 1  Aは、Bとの間で、原材料を会社の成立後に譲り受ける契約を締結した。会社の成立後、会社の代表取締役に就任したAに当該原材料を引き渡したBは、会社に対しその代金の支払いを請求することができるか。逆に、会社は、Bに対し当該原材料の引渡しを請求することができるか。
 2  Aは、Cに対し会社の宣伝広告をすることを依頼し、これを承諾したCは、近く会社が成立し営業活動を開始する旨の広告を行った。Cは、会社の成立後、会社に対しその報酬を請求することができるか。この請求ができないとした場合には、Cは、誰に対しどのような請求をすることができるか。



=構成=

一 小問1について

 1 前段 ……財産引受の有効性 →否定

【変態設立事項】定款に記載しなければ無効

 発起人Aは、会社設立後に原料を譲り受ける契約をBと交わしているが、これは財産引受(28条2号)にあたる。設立後に原材料を引き渡したBは会社に代金を請求できるだろうか。
 財産引受は、現物出資とおなじく変態設立事項としての規制を受け、定款への記載がなけれな無効となる。
 この規制は、財産引受がなされる場合、その目的物が不当に高く評価されることによって会社財産の確保を害する危険があり、また、現物出資の潜脱方法として利用される恐れもあることからなされている。
 よって、定款に記載があれば、財産引受は取引として有効に会社に帰属するから、Bは代金を会社に請求できる。
 しかし、定款への記載を欠く場合は、契約は無効であり、Bは代金を請求できないのが原則である。

 2 もっとも、この法定要件を欠く財産引受について会社が追認することでこれを有効にすることができないか。

 この点、追認を認めれば、厳重な条件を定めた法の趣旨を没却するとして、追認を認めないのが判例である。
 しかし、財産引受を規制する趣旨は会社財産の確保である。そこで、必要な財産の取得について、追認を認めず改めて契約をしなおすよりも、追認したほうが有利であり会社財産を害さないのであれば、追認を認めたほうがむしろ法の趣旨に適う。
 よって、会社による追認を認めるべきである。
 ただし、代表取締役の一存で追認が出来るとすると財産引受の脱法を認めることになる。そこで、追認には、株主総会の特別決議など、事後設立(467条1項5号)と同じ手続を求めるべきである。

 →よって本問Bは、会社の株主総会の特別決議により追認がなされれば、会社に代金を請求できることになる。
 
 3、なお、

なお、財産引受の追認の可否について、発起人の権限が開業準備行為に及ぶと解さなければ財産引受の追認が許さないとする見解があるが、妥当ではない。
 何故なら、28条により、定款に記載のない財産引受は無効である以上、民法119条をそのまま適用すれば、発起人の権限が及んでいるいないにかかわらず、追認は否定せざるをえないことになるからである。
 財産引受の追認が認められるのは、28条の立法趣旨を合理的に解釈することによる。立法趣旨である会社財産の確保のためには、取引の相手方に無効の主張を認める必要はなく、会社に追認を認めるべきである。


(私見によれば、発起人の権限は開業準備行為に及ばない。そこで、28条を合理的に解釈するならば、定款に記載のない財産引受は権限外の行為であるが、それは無権代理行為と認められ、その会社による追認を認めるべきことになる)


 2 後段 会社は材料の引渡請求が出来るか

→追認が可能であるので追認すれば 請求できる


二 小問2について
 1 前段 開業準備行為 
 Aの依頼により、Cが行った「近く会社が成立し営業活動を開始する旨の広告」は、開業準備行為といえる。
 この場合、Cは、会社の成立後、会社に対しその報酬を請求することができるだろうか。

   (この点、発起人の権限が開業準備行為に及ばないと解する私見によれば、28条が財産引受を認めているのは、発起人の権限外の行為をその必要性から特別に認めた規定であると考えることになる。その場合、財産引受にあたらない開業準備行為は一切認められないと考えることになるとも思える。しかし……)←ここまで、前田説を前提

 財産引受と、その他の開業準備行為は、会社財産の確保に対する危険性の点で特に異なるものではない。
 他方、財産引受行為以外の開業準備行為が全く許されないとする合理的理由はないし、また、それを認める実益がある。
 そこで、財産引受以外の開業準備行為一般についても、28条、33条、87条2項、93条の規定を類推適用すべきであると考える。

  以上から、本問Cは、その開業準備行為が定款に記載されていれば、取引が有効に会社に帰属するので、成立後の会社に代金を請求できる。また、定款への記載がない場合、小問1と同じく追認があれば、代金が請求できる。



 2 後段 

 この請求ができないとした場合には、Cは、誰に対しどのような請求が出来るか。
 定款への記載がない開業準備行為の依頼は、発起人による無権代理行為と考えるべきである。しかし、無権代理行為の時点で会社は未だ存在していない。そこで、民法117条を類推適用して、将来の会社に対する無権代理行為として、発起人の責任を追及すべきであると考える。
 よって、Cは会社からの追認を得られない場合は、Aに対し、損害賠償として代金相当額を請求できる。



(2006/06/23)