【不真正不作為犯の成立要件】
【不真正不作為犯の成立要件】

 不真正不作為犯とは、通常作為によって実現されることが想定されている構成要件を不作為によって実現する場合である。
 かつては、作為によって規定された構成要件を不作為に適用することは罪刑法定主義に反するとの主張もあった。
 しかし、例えば殺人罪において要件は「人を殺した」ことであるが、作為によることは要求されていない。「殺す」という行為の中には、作為と不作為とが想定できる以上、罪刑法定主義には反しない。
 しかし、不作為による結果の実現がすべて構成要件に該当するわけではない。(誰かが川で溺れた際、見ていた人全員が殺人罪になるわけではない)
 そこで、いかなる要件の下で、不作為を作為と同視して構成要件該当性を肯定できるかが問題となる。

 (要件@ 結果回避可能性)
 不作為とは何もしないことではなく、ある要件の下で「期待される行為をしないこと」である。そして、その期待される行為をすれば結果が回避できた可能性があることが、必要である。

 (要件A 保障人的地位による作為義務)
 不真正不作為犯においては、不作為と結果との間に因果関係があるだけでは構成要件該当性を肯定できない。「期待される作為」をなしうる者と結果との間には因果関係を想定できるが、その全員を処罰対象とすることは妥当ではない。(例えば、嬰児の餓死を防ぐために期待される作為は「母親の授乳」だけでなく「隣人による粉ミルクの提供」でもいいわけである)
 よって、不作為犯に作為義務を認めるためには保障人的地位が要求される。
 では、いかなる場合に、保障人的地位が認められるか。
 争いあるも、結果惹起に対する排他的支配がある場合に保障人的地位を認めうると考える。排他的支配があってこそ、その不作為によって結果が発生したと言いうることになり、作為と不作為を同視することが可能となる。
 また、排他的支配を肯定するためには、@自己の先行行為による危険の創出がある場合、A被害者との特別な関係により保護が強く期待される場合、などが考えられる。

 (要件B 作為可能性)
 作為犯が構成要件の実現を阻止するには行為を行わないだけで足りるが、不作為犯の場合は、期待された作為を積極的に行うことが必要である。よって、その期待された作為を行うことが可能であること(作為可能性)が要求される。
 (なお、作為可能性は個人の能力に従って判断されるため、責任要素に位置づけるのが妥当であるが、便宜上、ここで検討する)


 (2006/05/30)