★【クレジットカード不正利用】 (三角詐欺を否定)(独自説=藤木説に近似)
★【クレジットカード不正利用】 (三角詐欺を否定)(独自説=藤木説に近似)

 (問題)
 自己名義のCCを、カード会社に対し代金相当額を支払う意思・能力がないにもかかわらずカード契約加盟店において使用し、物・サービスを購入した場合に、詐欺罪は成立するか。

 (裁判例の構成:246条1項説)
 この点、欺罔により加盟店に商品を交付させたとして、加盟店が被欺罔者であり、処分者であり、被害者であるとして、1項詐欺の成立を認める見解がある。(ただし、交付されたのがサービスであれば2項)
 しかし、加盟店は商品を販売してカード会社から代金を受けとる地位を取得することで、まさに取引の目的を達しており被害者とみることは妥当ではない。★
 (これへの反論:商品を交付することで、それを他の人物に販売することが出来なくなっており、商品という個別財産に被害が発生している)

 (三角詐欺構成)
 ★そこで、加盟店を被欺罔者=交付行為者とし、カード会社を被害者とする三角詐欺が成立するとの見解が主張される。
 しかし、加盟店は代金の支払いを現金で受ける代わりにカードを提示されれば、カード会社から代金の立替払いを受けられる地位を取得するのである以上、商品を渡すことが欺罔されたことに基づく錯誤による交付行為であると解することには疑問が残る。
 何故なら、クレジットカード決済の重大な意義は、加盟店にカード会員の支払意思・能力の調査、評価を免れさせ、不払いの危険をカード会社が負担する点にあると考えられるからであり、そうである以上、顧客の支払意思・能力の有無という事実についての錯誤は、加盟店にとって法益関係的錯誤には当たらないと考えられるからである。
 加盟店としては、商品を販売し、カード会社から代金支払いを受ける地位を得ることでまさに取引の目的を達しており、欺罔によって法益関係的錯誤に陥っているとは言いがたいように思われる。
 (↑これは、山口の判例への批判を三角詐欺批判に転用している)

 (私見:被欺罔者=処分者=被害者=カード会社説)
 ★そこで、わたしは、カード会社が被欺罔者=処分者=被害者であり、カード会社に対する二項詐欺が成立すると考える。以下、その根拠を述べる。
 まず、カードが加盟店に提示される際に、加盟店の店員は、カード会社が会員の債務を免責的債務引受する契約を、カード会社を代行して行う代理人であると看做すことができる。
 カード提示者が代金支払い能力・意思を欠いてこの契約を行うことは、代理人たる加盟店店員を介して、いわば間接正犯的にカード会社を欺罔することだと言える。
 とすれば、カード会社から加盟店への代金支払いは、欺罔されたことに基づく錯誤による処分行為であり、欺罔と処分との間に因果関係も認めうる。(あるいはカード会社が加盟店に対して代金債務を負うことが処分行為?)
 加盟店に対して代金を振り込んだ時点で財産的損害が発生し、カード会員の口座から引落とし期日までに入金がなく、引落としがなされないことによって、その被害が確定的になると思われる。
 以上から、被欺罔者、交付行為者、被害者をカード会社とする二項詐欺が成立すると考える。
 (ちなみに、カード提示に実行の着手があると解せられるので、その時点で未遂が成立し、カード会社が、加盟店に対して代金を振り込んだ時点で既遂になると思われる)



========検討=========
・藤木説を否定する根拠は、「カード会社は錯誤がなくても加盟店への支払いを拒絶できない。よって、錯誤がなくても支払いを要するという意味で、錯誤に基づく交付行為がない」という点にある。(山口、西田も同じ見解)
 ・しかし、この点については、加盟店店員をカード会社の代理人(会員との、免責的債務引受契約の)と捉えることで、乗り越えられていると思われる。
  ・・店員(代理人)は、会員に支払い能力・意思がないと分かれば、店員として当然の判断として販売を拒否すると考えられる。つまり、欺罔されたからこそ、販売し、カード会社の代理人として会員の債務をカード会社に引き受けさせたといえる。
  とすれば、欺罔による錯誤、錯誤に基づくカード会社の処分には因果関係が認められる。

★なぜ、山口説を採らないか。
 山口説は、加盟店=被欺罔者、カード会社=交付者、被害者という構成。(被害者=カード会社は、第三者である加盟店に交付する、という構成)
 しかし、この構成は、被欺罔者と交付者は同一でなければならない、でなければ、欺罔に基づく交付行為があるとは言えないから、という自説に矛盾していると疑われるから。(山口各論p258参照)
 ★加盟店=被欺罔者、カード会=処分行為者という分離は認めがたい。それ以前に、加盟店が被欺罔者であるという理由付けも無理がある。(佐伯=道垣内p 参照)(また、山口各論p262の脚注109)で、自説への根本的疑問を正直に書いている。さすが山口先生。なおこの脚注は三角詐欺構成への批判として利用した)

★加盟店店員をカード会社の代理人とする可能性については、佐伯=道垣内の本で、佐伯が発言し、道垣内もその構成を可能と認めている。
 (読む前に、この構成にたどり着いたが、読んで確信を得た)

☆まさか、自分が藤木説類似の説に至ろうとは、思いもよらなかった……



=======以下はボツ=======
 (検討:私見:被欺罔者=処分者=被害者=カード会社説)
 (思うに、加盟店とカード会社の間でのカード利用契約は、利用者の手元に現金がなくても買い物が出来る利便性から売り上げの向上が期待できるという利益を加盟店に与え、その対価として、カード会社に対し、決済手数料を支払うものである。カード会社は、加盟店からの決済手数料、利用者からの分割払い時の利息などの利益を得るかわり、利用者の無資力の危険を負担していると考えるべきである。(だからこそ利用者の勤め先などを調査することになる)
 そこで、私見では、以下のように考える。
 カードが加盟店に提示される際、通常はカード会社は代金相当額を利用者から受けとれるという期待を抱くのであり、代金支払いの意思がないのに加盟店に対してカードを提示することは、加盟店の店員を介して、いわば間接正犯的にカード会社を欺罔する行為にあたると考える。(黙示による欺罔)(この点、カード会社のシステムに対する欺罔が観念できないという問題がありうる。しかし、カード会社が代金の立替払い債務を負う契約をするにあたって、利用者のサインを確認する加盟店の店員は、カード会社の債務負担行為を補助していると見られるので、店員に対する欺罔をカード会社に対する欺罔と同視できると考える。)
 この欺罔行為によって、カード会社が加盟店に代金を立替払いすることが欺罔による錯誤に基づく処分行為である。この交付は利用者ではなく加盟店に対してなされるので、第三者に対する交付という形態での二項詐欺になる。
 そして、翌月に設定された決済日に、入金がなされないことでカード会社における被害の発生が確定すると考える。
 すなわち、被欺罔者、交付行為者、被害者をカード会社とする二項詐欺が成立すると考える。)

 (ちなみに、カード提示に実行の着手があると解せられ、決済日までに入金すれば損害が発生しない以上、既遂になるのは決済日であると思われる)(??)

 (なぜボツか、といえば、カード会社の照会システムは機械であるから欺罔を観念できない……という欠点があるから。加盟店の店員がクレジット売上標にサインを求める際は、クレジット会社の業務を代行していると見うるならば、店員を介したカード会社の欺罔が成り立つとも思われる……)

 ★他人名義のカードを不正に利用する場合:同様に構成できると思われるが、売上げ標に他人の名を記入することで私文書偽造も別途成立する点が違う。


 (万が一、本試験で出たら判例で書くのが無難(笑)……)
 (2006/06/04)
 (2006/07/15修正 独自説! 本試験ではムリ;)