【銀行預金の占有の帰属】正当権限説
【銀行預金の占有の帰属】正当権限説
(誤振込みの場合)
銀行口座に預けられた金銭につき占有を有するのは銀行か、それとも口座名義人か。
基本的には、口座名義人は銀行預金につき占有を有する。(間接占有)
しかし、(誤振込みの場合)(払戻し人が正当な払戻し権限を持たない場合)、銀行は受取人への支払いを拒絶する正当な利益を有する。
このことから、口座名義人の預金による金銭の占有は、正当な払戻権限の範囲内で成立すると考える。
山口各論p289−291
(ただし通説は、銀行占有説:@名義人が有するのは預金債権という権利に過ぎない、Aいつでも払い戻せる訳でもないので、現実に専有しているとは言えず、占有は銀行にある……)
【払い戻した金額の一部には正当な引落とし権限がある場合】
口座残金のうちどの部分が、正当な権限に基づく払い戻しか確定できない以上、全額につき詐欺が成立するという見解もある。
しかし、仮に残高が十分にあって、誤振込みした利用者を害する恐れが存在しない場合でも詐欺罪が成立するのは妥当ではない。
残高が十分である以上、誤振込みがあったことを知っている行員と言えども、正当な払い戻し権限を有する者の払い戻しを拒絶することは出来ないと思われる。
仮に、口座に存在する金額のどの部分に正当な払い戻し権限があるか判断し得ない以上、すべてについて詐欺罪の対象となると考えると、自らの預金である金額についても犯罪を構成することになり、とすれば、他人からの誤振り込みがあった場合は一切銀行からの払戻しを受けられないことになって、明らかに妥当ではないと考える。
やはり、正当な引落し権限を有する範囲では、引落しは犯罪を構成しないと考えるべきである。
(よって詐欺罪は、残高が誤振込み人に返金するのに足りない場合にのみ、足りない範囲で成立すると考える。)