★【正当防衛の要件】
【正当防衛の要件】

 正当防衛とは、「急迫不正の侵害」に対し「自己又は他人の権利を防衛するため」「やむを得ずにした行為」について、違法性を阻却するものである(36条)。
 
 以下、正当防衛が成立するための要件について検討する。

【急迫不正の侵害】
 (1) 「侵害」とは、権利を侵害するものをいうが、では「人の行為」であることは必要か。侵害が人の行為によるものであれ、物であれ、被侵害者にとって権利防衛の必要性は変わらない。よって侵害に行為性は不要であり、対物防衛も認められる。
 (2) 侵害は「不正」でなければならない。侵害が人の行為によるものである場合、有責性は必要か。責任無能力者による侵害には防衛が認められないとすれば妥当でない。よって、不正とは客観的に違法であることで足りる。(また刑法上構成要件に該当する違法である必要はない)
 (3) 侵害は「急迫」している必要がある。そこで、被侵害者が侵害を予期していた場合に「急迫」に当たらないのではないかが問題となる。この点、予期により急迫性は失われない。なぜなら、正当防衛は責任阻却事由ではないので、不意打ちによる意思の抑圧は成立要件ではなく、客観的に切迫性があれば、急迫していると言えるからである。

  【積極的加害意思ある場合】
  この場合、急迫性が失われるとする考えがあるが、被侵害者の主観により急迫性という侵害の客観的属性が変化するとは言えない。
  むしろ、予期を越えた積極的加害意思をもって対抗行為に及ぶ場合、それは「防衛のため」の行為にあたらず、正当防衛の要件を充たさないと言うべきであると思われる。
  (山口旧説『問題探求総論p59』)

【防衛行為】
 (1) 防衛行為は侵害者に向けられる必要がある。第三者に向けられる場合には、正当防衛は成立せず、補充性の要件を充たす場合にのみ緊急避難が成立しうる。
 (2) 【防衛の意思は必要か】 これを必要とするのが判例であるが、結果無価値の立場からは、防衛の意思は要件として不要であると考える。それは、心情要素にすぎず、違法要素とは言えないのである。よって、偶然防衛についても正当防衛を肯定しうる。
 (3) 防衛行為によって、防衛効果が発生することを成立要件とすることは妥当ではない。それを認めると未だ効果が発生していない正当防衛行為は違法であることとなり、それに対し正当防衛で対抗することを認めることになり、正当防衛の趣旨を没却するからである。

【やむを得ずにした行為】
 正当防衛においては、被侵害者の法益は侵害者の法益に優先するため、緊急避難に必要な法益の均衡(補充性の要件)は必要とされていない。しかし、過剰防衛の規定があることからも、防衛のためならいかなる行為でも許されるわけではない。
 そこで通説は、防衛行為の「相当性」を範囲限定のための要件とするが、その内容はきわめて不明瞭である。
 そこで、被侵害者には侵害を回避し退避する義務がないこと、正は不正に譲歩する必要がないことを重視するならば、侵害排除に必要不可欠な対抗行為(防衛行為の必要性)であればいかなる法益侵害行為も許されると考える。
 つまり防衛者の具体的な能力を考慮した上、侵害排除のため、必要な行為であった場合には、結果として過剰な結果を生んでも、また侵害排除に不十分であっても、まさに必要な行為であったとして違法性が阻却されるのである。


 ただし、
 【著しい害の不均衡の場合】
 →過剰防衛ではなく、
 そもそも防衛行為ではないとして、正当防衛を否定すべき
 よって、過剰防衛にもならない
 (ex.リンゴ一個を窃盗から守るために、射殺するしか手段がない場合)
 この場合には、侵害される法益の軽微性から、事後的な民事上の救済に委ねられるべきであるから、被侵害者の当座の侵害受忍を要求することになる。よって、「著しい害の不均衡」と言うためには、@侵害される法益の軽微性、A害の均衡の著しい逸脱、の双方を厳密に要件とすべきである。


 (2006/05/30)