【国会法56条による議員発議権の制約】 41条(国会単独立法の原則)
【国会法56条による議員発議権の制約】 41条(国会単独立法の原則)


 国会法56条は、議員が議案を発議するにあたって、一定数の賛成議員を要するという制約を設けている。この規定が議員の発議権を侵害するものとして問題とならないか。
 国会が唯一の立法機関(41条)としての機能を果たすためには、国会は立法手続につき他の国家機関の干渉を受けず、単独で立法を出来なければならず、その前提として、議員による法律案の発議が可能でなければならない。
 また、国民から選ばれてその代表として活動する議員は、一人一人が「全国民を代表する」(43条)のであるから、その自由委任の意義を活かすためには、個々の議員が自分の政治理念や良心に従って自由に意見を表明し、行動できる必要があり、発議権もまた、基本的にその一人一人に認められるべきものである。
 とすれば、発議のために多人数の賛成を要するとすれば、少数意見を代表する議員の発議権が封じられてしまい妥当でないとも思える。

 しかし、一人一人が独自に法律案を発議できるとすれば、限られた国会会期中に膨大な議案を処理し切れず、結局、重要な法律を成立させることが逆に困難になるという弊害が考えられる。また、選挙区受けを狙ったいわゆる「おみやげ立法」がなされる危険もあるので、このような弊害を防止するため、一定程度の賛成議員を発議要件として要求する必要性がある。
 発議の前に、同僚議員の賛成を得る必要があるとなれば、発議前に議案がより説得力のある客観的なものへと練りあげられ、また、発議数が減ることで、真に重要な法案について充実した審理が可能になるという実益もある。
 そして、発議された法案が可決されるには、議会で過半数の賛成を得なければならないことを考えると、発議の時点で数名の賛成も得られないような案は成立の見込みはないと言える。
 よって、各議院の定員の10分の1程度の賛成を発議要件としても、実質的には議員が立法に関与する権利を害することはないと考える。
 また予算を伴う法律案については、政府に予算措置を講じる義務を課すものであり、国民の税金を行政府が使用する使途を定めるものであるから、より一層慎重に審理がなされる必要がある。そこで、発議自体に、その他の法律案より大きな要件を課すことにも合理性がある。
 よって、国会法56条は、議員の発議権を不当に制約するものではなく、むしろ国会の立法作用を実質的に保障し、充実した審理を可能にするものとして憲法上認められると考える。



 (2006/06/28)