【国政調査権の限界:人権尊重原則】特に刑事訴訟手続の関係
【国政調査権の限界:人権尊重原則】特に刑事訴訟手続の関係


【人権尊重原理による制約】

 議院が国政調査権を発動して、証人に証言を求める場合、正当な理由なく、出頭、書類提出、宣誓、証言などを拒めば、刑罰を科せられることになる(議院証言法7条)。
 かかる強力な強制力が、人権を侵害する恐れは大きいことから、証人には、一定の場合に証言の拒否が認められる。
 例えば、証言により刑事訴追を受ける恐れがあり、あるいは現に受けている場合、憲法38条で認められる黙秘権の行使として、また、議院証言法7条の「正当な理由」にあたる場合として、証言を拒みうる。
 また、思想信条の表明を求められる場合には、上記条文に加え、憲法19条をも根拠として証言を拒むことが認められる。


【刑事事件に関わる場合の問題】
 現に刑事訴追を受けているか、あるいは受ける可能性のある事柄について私人を喚問し調査することには、人権保障の観点から特に慎重な配慮が要求される。
 すべての国民は、適正な手続の保障(31条)のもと、裁判を受ける権利(32条)を有し、また自己に不利益な証言を拒む権利を有する(38条)。
 このような問題について、議院が刑罰を伴なう強制力をもって調査を行えば、著しく人権を損なう恐れがある。
 また、本来公訴事実の存否を判断すべき司法権に先立って国会がこれを判断するような調査を行えば、刑事裁判の公正と、国民の司法への信頼を損なうことになる。
 よって、議院は、あくまで調査の内容を、法案の審議や行政への監督といった目的のために必要な範囲の質問をし、公訴事実の有無を判断するような質問は、慎むべきである。
 また、仮にこのような質問がなされたとしても、証人は黙秘権の行使(38条)として、また議院証言法7条の「正当な理由」があるとして、証言を拒むことが認められる。