法学座敷牢 別名 ろうやぁ

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3-2-01 債権侵害に対する不法行為責任の追及

論証

 (前提)債権も法的な保護に値する財産権である以上、債権者が本来給付を受けられなくなるのは損害であり、それが第三者の行為によるならば不法行為による損害賠償の対象となる。
 では、債権侵害に対する不法行為責任を認めるためには、客観的な損害に加え、どのような主観的要件が必要か。以下に、類型ごとに検討する。
(以下は、実際に問題に出てきた事例について書けばいい)
 (1)(例えば預金通帳と印鑑の盗取)債権者以外の第三者に債権を帰属させ給付を得させて債権者を害する場合、異論なく不法行為が成立すると言え、主観的要件としては過失で足りると考える。
 (2)事実行為によって、債権の給付を侵害する場合
 (2-1)直接の被害者への行為によって、間接被害者の債権を侵害する場合には、(A)被害者と間接被害者とが実質的に一体であって、実質的に被害者の損害を間接被害者が請求している場合には、過失があれば、不法行為を認定してよいが、(B)一体と言えない場合については、直接被害者の損害賠償の範囲の問題とすべきであり、故意がない限り間接被害者に対する損害は(直接被害者に対する)賠償の範囲には入らず、かつ、間接被害者との関係でも不法行為は成立しないと考える。
 (2-2債権者を害するために、債務者の自由意志に働きかけ、債務不履行を誘発した場合には、不法行為の整理対は債権者を害する故意が必要だと考える。
 (3)契約的介入によって、債権の給付を侵害する場合
 (3-1)二重譲渡の場合、第二の買主は第一の買主との関係で不法行為責任を負うか。
 この点通説は、民法の対抗要件主義が第二の売買がなされることを是認しているということを根拠に、第二買主が背信的悪意者でないかぎり所有権を取得できる以上、不法行為責任も発生しないと考えてきた。しかし、自由競争はこれから契約しようとするときに働く原理であり、第一の買主の存在を知りつつ契約するのは、(対抗要件主義が適用される)自由競争ではなく、横領の共犯にすぎない。
 従って、第二買主に悪意または過失があれば、第一買主は所有権を取得できるが、所有権の取得を難らかの理由で断念した場合、不法行為による存在賠償責任の追求も選択的に可能であると考える。
 (3-2)競争関係にある会社の被用者を引き抜いて、会社の雇用債権を害する場合に、不法行為は成立するか。
 転職には被用者の主体的な意思が介在するし、労働者の転職の事由は憲法上保障された権利でもある。従って、自由意志による転職と債権保護の調整は慎重にならざるを得ない。
 しかし、単なる転職の勧誘を越えて社会的相当性を逸脱した引抜行為については不法行為責任が発生すると考えられる。
 (4)責任財産を減少させる場合
 (4-1)毀損、窃取、隠匿等の事実行為により債務者の責任財産を減少させる場合、債権侵害の故意があれば不法行為責任を問いうると考える。
 (4-2)一方、契約ないし法律行為を通じて責任財産を減少させる場合は、保護範囲が重なり合う債権者取消権によって保護を図るべきである。

関連条文

検討

債権侵害で不法行為が成立するかどうか→709条の「権利侵害」に、債権侵害が含まれるかどうか、という形で問題になる。

かつては、「債権侵害は不法行為にならない」というのが通説であったが、既に否定されている。

伝統的通説の三分類:
第一類型:債権の帰属が侵害される
第二類型:給付の侵害→履行不能により債務消滅
第三類型:給付が妨害されるが、債務者に帰責性があり債務が消滅しない

《近時の新たな要件論》
主観的要件の細分化:
・過失……「予見可能な債権侵害について、これを回避すべき注意義務を怠ること」
・故意(二段階)
  (1)・単に債権侵害の事実を認識し、容認する場合
  (2)・積極的な害意(通謀意志を含む)を持つ場合

内田先生による三分類:

(1)帰属侵害型……異論なく不法行為が認められる事案の類型

(A)(イ)間接損害型……例:会社社長を交通事故死傷→会社に対する雇用契約上の債権侵害が発生(企業損害
(A)(ロ)不法行為誘発型……例:債務者を焚きつけて債務不履行させる行為。
 《(A)間接損害型の主観的要件》
 (一)……直接の被害者との間で過失あり(ex.交通事故)
 (二)……直接の被害者に対する不法行為に故意あり。ただし、債権者を害する認識はなかった。
 (三)……債権者を害する故意がある場合。(典型は債務不履行誘発型)
 ・(三)の場合は、異論なく不法行為責任が成立する。
 ・しかし、(一)(二)の場合は……
  ・基本的には、直接被害者の損害賠償の範囲の問題とすべきであり、被害者と間接被害者が一体で、実質的に被害者の損害を間接被害者が請求している、という場合を除き、故意がない限り間接被害者に対する損害は(直接被害者に対する)賠償の範囲には入らず、かつ、間接被害者との関係でも不法行為は成立しない。
(B)(ハ)二重譲渡型……(論証を見よ)
(B)(ニ)引き抜き型……(論証を見よ)

(3)責任財産を減少させる場合……(ホ)事実行為については、詐害行為と同じく、債権侵害の故意をもって不法行為責任を認めるべき。
 (ヘ)法律行為による場合。もっぱら、債権者取消権による保護に委ねるべき。

この論証を使用する過去問

過去問へリンクする。過去問を検討する際に、論証のファイルを直して、リンクを貼る。

参考文献

内田『民法III』p168-178
(非常に精緻な分類で、やや難解)


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