【534条1項 債権者主義を制限する法的構成】
【534条1項 債権者主義を制限する法的構成】

 1、 特定物に関する契約については債権者が危険を負担すると定めており(534条)、実際上は広く債権者主義の適用を認めている。
 債権者主義の根拠は、その目的物から利益を得るものが危険も負担すべきであるという点にある。しかし、これを徹底して、契約のみで買主(債権者)が危険を負うとすれば双務契約の対価性を害し妥当ではないので、債権者主義は制限的に解釈すべきである。

 2、 では、どのような要件により、危険が債権者に移転するか。
 
 (論理の流れ)
 ・特定物の移転を目的とする債務は、物に対する物的支配を内容としているので、純粋に両債務の牽連性からのみ解釈すべきでなく、支配関係を判断基準とすべきである。
 ・そして、損失を負担するにあたっては目的物から現に利益を受けているものが、損失も負担すべきである。
 ・とすれば、支払いによって所有権を得ても、引渡を受けていなければかかる利益は取得していないと言える。(よって、所有権の移転を基準とすることは妥当ではない)
 ・この点、引渡によって使用収益権が移転していれば現実に物を支配しているといえる。また、不動産においては登記の移転があれば、全支配権能が移転したといいうる。
 ・以上から、「引き渡し」「登記」があれば、現実に支配が移転しており、危険も債権者が負担すべきであると考える。(「現実支配」(引渡・登記)説)



=短縮版=

 争いあるも、物に対する現実の支配が移転した時に危険が移転するのが妥当であると考える。
 しかし、支払いによって所有権を得ても、それだけでは現実の支配があるとは言えない。
 そこで、引渡か登記の移転があった時に、債権者に現実的な支配権が移転すると考えるべきであり、それらがあったときに、危険も債権者に移転すると考える。