【氏名冒用訴訟】
【氏名冒用訴訟】


 (定義) 氏名冒用訴訟とは、他人の名義を冒用して訴え、または応訴することを言う。

 (当事者確定の意義)必要性
 訴状に記載されたBが当事者なのか、実際に出廷しているAが当事者なのか、それによって裁判所の取るべき措置が変わってくるため、まず当事者を確定する必要がある。

 では、どのような基準で当事者を確定すべきか。

 当事者の特定は、訴訟手続き開始の前提であり、訴訟提起後すみやかに確定する必要がある。
 また、訴え提起の時点で裁判所には訴状以外には判断の材料は存在しない。
 そこで、基準の明確性及び迅速な確定の必要性から、訴状および準備書面の記載を基準として当事者を判断すべきである。
(表示説)

 (実質的表示説からの帰結) 当事者の確定にあたっては、訴状、準備書面の記載を基準に判断するべきであるので、氏名冒用の場合も、当事者は、訴状に氏名を記載された者である。

 (冒用発覚後の処理) 以下に、甲が乙名義を冒用して訴訟行為を行った場合、どう処置すべきかを検討する。

 (審理の途中で冒用が判明した場合)
 甲が原告として、乙名義を冒用して提訴していた場合、本来の原告は乙である。甲が訴訟を続行するためには、任意的当事者変更により、原告を乙から甲に変更する必要がある。
 甲が被告として、乙名義を冒用していた場合、被告は乙であるから、裁判所は審理から甲を排除し、乙に訴訟を追行させることになる。
 ★訴状を受け取っていない乙には訴訟係属が生じていない。
 裁判所は、原告に補正を命じ、その後、乙に対して改めて訴状を送達し、甲を訴訟手続きから排除したうえで、乙に訴訟を追行させるべきである。



 (冒用が発覚しないまま被冒用者名で判決が出た場合)
 【当事者確定の表示説】→乙に有効な訴訟係属が認められないような状況で乙に対して下された判決が、有効であるとすることには理論上疑義がないとは言えない。しかし、法的手続きの安定性を重視する観点からは、一旦なされた判決を軽々しく無効とすることは出来ない。よって、判決が有効に乙に効果帰属することは避けられないと考える。



 この場合、被冒用者に判決効が及ぶので、乙は、上訴・再審などによって争って権利を回復する必要がある。