【相殺の抗弁と二重起訴】142、114-2
 【抗弁後行型】 Aが訴求中の債権を、別訴において相殺の抗弁の自働債権として主張することは二重起訴の禁止に触れるか。
 (二重起訴禁止原則は、同一訴訟物または同一社会関係に基づく複数の訴訟物について、別の訴訟手続によって本案判決を求めることを許さない趣旨である。)
 後訴における抗弁の提出は、たしかに「訴えを提起する」ことにはあたらない。しかし、債権の存否について審理が重複するし、相殺の抗弁については理由中の判断であっても、既判力が生じる(114-2)以上、判決の矛盾が生じる恐れがある。
 よって142条を類推し、二重起訴にあたり許されないと考える。

 【抗弁先行型】 Aが前訴において相殺の抗弁の自働債権としている債権を、主請求として別訴を提起することは二重起訴の禁止に触れるか。
 (二重起訴禁止原則は、同一訴訟物または同一社会関係に基づく複数の訴訟物について、別の訴訟手続によって本案判決を求めることを許さない趣旨である。)
 前訴における抗弁は、たしかに「係属する事件」142にはあたらない。しかし、債権の存否について審理が重複するし、相殺の抗弁については理由中の判断であっても、既判力が生じる(114-2)以上、判決の矛盾が生じる恐れがある。
 よって142条を類推し、二重起訴にあたり許されないと考える。
 この点、相殺の抗弁は通常予備的抗弁として提出されるのに、別訴を二重起訴としては相殺権者に酷であるとする批判があるが、だとしても、矛盾する判決の可能性がある以上、これを禁じる必要性にかわりはない。
    伊藤193,194 デp71