【相殺の抗弁の既判力の範囲】114条2項
【相殺の抗弁の既判力の範囲】114条2項

 では、相殺の抗弁を認める判決理由中の判断において、どのような範囲で既判力が生じるか。
 この点、紛争の蒸し返しを防止するには、訴求債権と反対債権の存在と、その相殺による消滅にまで既判力が及ぶべきであるとする見解もある。
 しかし、基準時より前の権利の存在および相殺によるその消滅が既判力によって確定するということは既判力の原則に反する。
 よって、反対債権が不存在で相殺が認められない場合も、逆に反対債権による相殺が容認された場合も、基準時において相殺相当額につき反対債権が不存在であるという点にのみ、理由中の判断に既判力が生じるとすべきである。
 また、この点にのみ既判力を認めれば紛争の蒸し返し防止には十分である。原告が、反対債権不存在を主張し、不当利得返還請求などをすることは、主文中の判断の既判力に抵触するし、逆に被告が、原告の債権は別の理由で不存在であり、原告は理由なく反対債権の支払いを免れたとして不当利得返還請求をすれば、反対債権の相殺額についての不存在という理由中の判断についての既判力に抵触するからである。
   伊藤p467−468! ←分かり易い!