【会社の取締役に対する手形行為は利益相反にあたるか】
 (1)会社が取締役に対し手形を振り出すことは利益相反取引にあたるか。
 この点、手形行為者はその行為により原因債務とは別個の債務を負い、しかもその債務は、挙証責任の加重、抗弁の切断、不渡り処分の危険などを伴う、原因債務より厳格な支払義務を負う。とすれば、かかる取引は利益相反にあたり、会社が右取引をするためには取締役会の承認を要すると考える。
 (2)以上から、会社は手形の振出しにつき取締役会の承認を欠くとの理由で、当該取締役に対し手形振出の無効を主張しうる。
 しかし、手形の裏書譲渡を受けた第三者に対しても、手形券面上知り得ないかかる事情によって無効を主張できるとすれば、あまりに手形取引の安全を害する。
 そこで、会社は、@手形振出につき取締役会の承認を欠くことに加え、A右第三者が、その手形がその取締役に対して振り出されたものであることと、取締役会の承認がないことについて、悪意であることを主張立証しなければ、振出の無効を主張して手形上の責任を免れることは出来ないと考える。
(相対的無効説)
     前田〔478〕 百選64!