【代表権の濫用】349-5適用説
 代表取締役が、会社の利益のためではなく、自己又は第三者の利益のために権限を行使することを代表権の濫用という。かかる濫用による権限行使の効力が問題となる。
 この点、代表取締役は業務執行に関する一切の権限を持ち、その権限は包括的・不可制限的なものであるとされる。349-4
 しかし、代表権行使にあたって濫用が許されないことは当然の前提であって、これは代表権の当然の制限であり、濫用行為は無効であると解する。
 ただし、濫用の場合における代表行為の効力についても、代表権の制限の規定である349-5が適用され、相手方が濫用につき悪意でない限り、会社は無効主張できないと考える。 (前田説:349-5適用)
 (この点判例は、代表取締役の内心と行為に心裡留保類似の関係があるとして民法93条但書を類推適用し、善意無過失の相手方を保護するが、理論的には表示行為と真意に不一致があるとは言えないし、結果的にも善意有過失の相手を保護しないことは妥当ではないと考える。)
    前田〔531〕