法学座敷牢 別名 ろおやぁ

いんでっくす あばうと りんく ぶろぐ けいじばん

択一対策知識整理ノート:刑法 各論

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目次(山口各論の順で)

  1. 個人的法益に関する罪
    1. 生命に対する罪
      1. 生命の保護
      2. 殺人罪
      3. 堕胎罪
      4. 遺棄罪
    2. 身体に対する罪
      1. 総説
      2. 暴行罪
      3. 傷害の罪 傷害罪(204) 現場助勢罪(206)
      4. 危険運転致死傷罪
      5. 凶器準備集合罪
      6. 過失致死傷罪
    3. 自由に対する罪
      1. 自由の保護
      2. 脅迫・強要罪
      3. 逮捕・監禁罪
      4. 略取・誘拐罪
      5. 性的自由に関する罪
      6. 住居侵入罪
    4. 人格的法益に対する罪
      1. 秘密に対する罪
      2. 名誉に対する罪名誉の概念名誉毀損罪230 侮辱罪231
    5. 信用及び業務に対する罪
      1. 総説
      2. 信用毀損罪
      3. 業務妨害罪
    6. 財産に対する罪
      1. 財産罪の体系
      2. 窃盗罪235親族間の犯罪に関する特例244(親族相盗例)
      3. 強盗罪: 暴行脅迫の判断基準 死者の占有 強盗致死傷罪(240):致死傷の原因行為 強盗致死(240後段)で、死の結果に故意ある場合
      4. 詐欺罪三角詐欺(訴訟詐欺) 不法原因給付と詐欺罪
      5. 恐喝罪
      6. 横領罪: 「横領」の意義
      7. 背任罪(247)
      8. 盗品等に関する罪盗品罪と共犯
      9. 毀棄・隠匿罪
  2. 社会的法益に関する罪
    1. 公共危険罪
      1. 総説
      2. 騒乱罪
      3. 放火罪・失火罪 放火及び失火の罪 建造物等以外放火110
      4. 出水罪
      5. 往来妨害罪
      6. 公衆の健康に対する罪
    2. 取引等の安全に関する罪
      1. 総説
      2. 通過偽造罪
      3. 文書偽造罪 文書偽造の罪「名義人」「作成者」とは 代理名義の冒用
      4. 有価証券偽造罪
      5. 支払用カード電磁的記録に関する罪
      6. 印章偽造罪
    3. 風俗に関する罪
      1. 総説
      2. わいせつ、姦淫及び重婚の罪 強制わいせつ等致死傷罪(181)
      3. 賭博及び富くじに関する罪
      4. 礼拝所及び墳墓に関する罪
  3. 国家的法益に関する罪
    1. 国家の存在に対する罪
      1. 内乱に関する罪: 内乱罪に関する共犯規定
      2. 外患に関する罪
    2. 国交に関する罪
      1. 総説
      2. 外国国章損壊等罪
      3. 私戦予備罪・同陰謀罪
      4. 中立命令違反罪
    3. 国家の作用に関する罪
      1. 総説
      2. 公務の執行を妨害する罪強制執行妨害罪
      3. 逃走の罪
      4. 犯人隠匿及び証拠隠滅の罪: 犯人隠匿罪 「罪を犯した者」の意義
      5. 偽証の罪「虚偽の陳述」の意義
      6. 虚偽告訴の罪
      7. 職権濫用罪
      8. 賄賂罪
    4. 追補 ハイテク犯罪に対処するための刑法の整備

個人的法益に対する罪

身体に対する罪

傷害の罪

傷害罪204:傷害の意義(保護法益の範囲)

  1. 生理的機能障害説判例
    1. 【定義】生理機能の障害ないし健康状態の不良変更
    2. 【例示】髪を切る……含まない(暴行罪)。神経症……含む。病毒の感染、失神、不安・抑うつ症、PTSDなど……含む。
    3. 【批判】生理機能の障害に匹敵する苦痛を被害者に与える外部的完全性の毀損を障害に含めない合理的理由がない。
  2. 完全性毀損説
    1. 【定義】人の身体の完全性の侵害(外見をも保護)
    2. 【例示】髪を切る……含む。神経症……含まない。
    3. 【批判】暴行罪の法定刑の上限は懲役二年と比較的高く、軽微な外部的完全性の毀損は暴行罪とすれば足りる。
  3. 折衷説
    1. 【定義】生理機能の障害および、身体の外見の著しい変更←やや妥協
    2. 【例示】髪を切る……含まない。程度による? 神経症……含む。
    3. 【批判】暴行罪の法定刑の上限は懲役二年と比較的高く、軽微な外部的完全性の毀損は暴行罪とすれば足りる。

暴行によらない障害

 ・障害は暴行(物理的有形力の行使)によって生じる(基本型)
 ・が、暴行によらない障害(無形的手段)も可能。
 ・ex. 嫌がらせ電話→精神衰弱に。 怒号等→不安・抑鬱状態に。 性病であることを隠して、性器を押し当て→性病を感染させる。

傷害罪の故意の要件(主観的要件)

 (事例:暴行の故意で障害結果を生じた場合の処理)
 傷害罪説(暴行罪の結果的加重犯を含むとする説)(通説)
 ・暴行罪の規定208が「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、」と定めるのは、傷害するに至ったときは204(傷害罪)で処断する趣旨と解する。
 ・204は38.1(故意犯処罰規定)の但書の場合に当たると解する。
 第三十八条  罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
 暴行罪と過失致傷罪の観念的競合説(傷害の故意を要求する説)(木村)……根拠は38.1本文。
 ★無形的方法による場合、暴行は経由せず、暴行の故意が考えられない以上、傷害の故意が必要である。前田p32

現場助勢罪(206)

(現場助勢)
第二百六条  前二条注:傷害、傷害致死の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

☆論点=適用範囲が、それを軽く処罰する趣旨との関連で争われる
 判例=幇助にならない行為を処罰する趣旨。幇助に当たれば、現場で行われても幇助罪とする。妥当な気がする……
 他の学説(山口)=幇助(及びその実行未遂形態)に当たる行為で、現場で行われたものを、野次馬的な群集心理を考慮して軽く処罰する趣旨。軽く処罰する根拠は、野次馬的心理を考慮した責任の減少。また、幇助行為も「勢いを助けた」と言える以上、現場助勢罪の適用範囲から除外するべきではない。これも理屈はわかる

名誉に対する罪

保護法益は「名誉」

名誉の概念

1、内部的名誉=自己又は他人の評価とは独立した「人の真価」←自己以外によって侵害は不可能であり、刑法の保護対象にならない。
2、外部的名誉=人に対する社会の評価、世評、名声。社会的名誉とも。(虚名含むw)
3、主観的名誉=本人が自己に対して抱く名誉感情

名誉毀損罪230

名誉の意義

  1. A説:230の保護法益=外部的名誉、231=名誉感情とする団藤他
    1. →両罪は、保護法益で区別する。
    2. →231でも、事実の摘示を伴う場合を認める
    3. 【批判】230-2により名誉毀損が不成立でも、なお名誉感情は侵害されうるとして別途231の成立を認めるのは不当西田各論p120
  2. B説:230、231共に保護法益は外部的名誉とする判例通説
    1. →両罪は、事実の摘示の有無(行為様態)で区別する。
    2. 【批判】231の「事実を摘示しなくても」は、事実を摘示する場合も含むと解するのが自然。
  3. C説:230、231共に保護法益は外部的名誉+主観的名誉(名誉感情)とする。(平野他)
    1. →両罪は、事実の摘示の有無(行為様態)で区別する。
    2. 【批判】231の「事実を摘示しなくても」は、事実を摘示する場合も含むと解するのが自然。

侮辱罪231

財産に対する罪

窃盗罪235

親族間の犯罪に関する特例244(親族相盗例)

(親族間の犯罪に関する特例)
第二百四十四条  配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2  前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3  前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

★1項と2項で扱いに不均衡! 1は、刑の免除という有罪判決。2は親告罪とされ、告訴ない限り処罰されない。
 A・1項も、刑訴法399.1:2に準じ、公訴棄却すべき、とする説条文上の根拠に乏しい
 刑訴法 第三百三十九条  左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
一  第二百七十一条第二項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。
二  起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき。


B・1項についても2項との均衡上、解釈として親告罪として扱うべきとする説(団藤、山口)

特例の趣旨・根拠重要

  1. 政策説(一身的処罰阻却事由説)判例・通説・妥当
    1. 【根拠】親族間の紛争には国家は介入を控えるべき
    2. 【批判】処罰阻却事由とすると、親族関係の錯誤の場合、錯誤を考慮しえず、責任主義の観点から疑問
    3. 【反論】38.2の趣旨から、行為者の認識した範囲内での科刑=刑の免除を課すことも論理的に不可能ではない。前田p186
    4. 【山口の反論】親族関係は客観的に存在するか否かが問題。認識していなくても特例は適用でき、存在しなければ、存在を誤認していても特例の適用はない。山口p209
  2. 違法減少説
    1. 【根拠】親族間においては所有・占有関係が合同的であり、区別不明確で、法益侵害が軽微だと解する。要は、家族は財布が一緒、丼勘定ということ
    2. 【批判】(1)2項の親族間(親告罪)では、所有・占有区分の不明確さという事情は見られない。(2)現在の家族関係の現実に即していない
    3. 【反論】
  3. 責任減少説
    1. 【根拠】親族関係という誘惑的要因のため責任が減少する。(反対動機が弱く、期待可能性が少ない)親父の財布から盗っても、小遣い貰うのと同じだよねー♪
    2. 【批判】2項の親族関係では、類型的に責任減少を基礎づける事情も認めがたい。
    3. 【反論】
  4. 犯罪不成立説
    1. 可罰的違法性阻却事由説
    2. 責任阻却事由説
    3. 【これへの批判】244.1の定める法的効果(刑の免除)は有罪判決であるから、犯罪の成立自体を否定する説は解釈論として無理があり、採りえない。山口各論p206

強盗罪

暴行脅迫の判断基準

  1. 【暴行脅迫の程度】=反抗を抑圧するに足りる程度(判例通説)
  2. 【判断基準】
    1. 客観的基準説社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度であるか、客観的基準によって決する(判例)
    2. 被害者基準説:暴行脅迫が反抗抑圧に足りるものか否かは、被害者の事情をも考慮して判断すべき。(山口)
       ・「客観的基準」は、たまたま被害者が反抗抑圧されなくても強盗未遂が成立する、という意味で妥当性を有する。(純主観説の否定)
       ・一般的には反抗抑圧に足りない暴行でも、反抗抑圧効果を持った場合は、被害者の特性を考慮して判断するほうが、「客観的判断」に適う。
       ・行為者の当該事情の認識は、反抗抑圧性の判断ではなく、その認識(故意)の有無に関わるもの

強盗致死傷罪(240):致死傷の原因行為

@手段説:強盗の手段である暴行・脅迫から生じたものに限定
 ←批判:強盗致死傷罪の成立範囲が狭すぎる
A密接関連性説(学説):@+「強盗の機会」に行われたもののうち強盗行為と密接な関連を有する行為
 ←批判:限界が明瞭でない点に疑問がある。
B機会説(判例通説):「強盗の機会」に死傷の結果が生じれば足りる
 ←批判:成立範囲を拡張しすぎる。「強盗の機会」に、元から恨みのある第三者や、仲間割れした仲間を死傷した場合まで含まれてしまう。
C拡張された手段説(山口、西田説):@+事後強盗類似の状況における暴行・脅迫

強盗致死(240後段)で、死の結果に故意ある場合

@殺人罪と強盗致死罪との観念的競合(旧判例
 ←批判:死を二重評価することになる。
A240後段のみを適用し強盗致死罪とする判例・通説
B殺人+強盗罪成立としたのでは、死の結果に過失がある場合(強盗致死罪)よりも刑が軽くなり均衡を失する。
 よってAが妥当であり、傷害に故意ある場合も、240前段のみを肯定することが妥当。
 こうして、240条は「強盗殺人罪」(故意あり)「強盗致死罪」(故意なし)「強盗傷人罪」(故意あり)「強盗致傷罪」(故意なし)の4類型からなることになる。山口各論p234

死者の占有 (山口各論p180)

=事例=
A・財物奪取の意図で殺害し、後に財物を奪取
B・殺害後に、財物奪取の意図を生じ、財物を奪取
C・殺人と無縁の第三者が、死体から財物を奪取
【判例の処理】A=強盗殺人、B=殺人+窃盗罪肯定、C=窃盗罪肯定。Bにつき、「生前有していた財物所持は死亡直後も継続して保護するのが法の目的にかなう」として「死者の占有」を認める。
【「死者の占有」否定説(山口)の処理】A=強盗殺人、B=殺人+遺失物等横領罪、C=遺失物等横領罪とする。「死者の占有はフィクション。肯定される範囲も不明瞭。恣意に流れる危険」と指摘。なお、Aにつき、「生前の占有を侵害し、財物の占有離脱状態を生じさせた後、その占有を取得することから盗取罪が成立するのであり、死者の占有を肯定するものではない」と説明。(まー、これもフィクションっぽいかな?)

詐欺及び恐喝の罪

(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

☆一項詐欺=財物交付。二項詐欺=利得を得る。

三角詐欺(訴訟詐欺)

【裁判所は錯誤に陥るか】
 ・形式的真実主義が妥当するので、虚偽だと分かっていても勝訴判決を出さざるをえない場合があり、欺罔行為・錯誤の要件を充たさない疑問。
 また、敗訴者の交付行為が「意思に基づく交付」と言えるか疑問→(否定説:団藤)
・(自由心証主義から)裁判所が欺罔されることがあるのは否定できない。
 また、交付者は敗訴者ではなく、被欺罔者である裁判所である。(裁判所の強制執行を処分行為と考える)(前田p234)
 これは、被欺罔者・交付(処分)行為者と被害者が分離する三角詐欺の一種→肯定説(判例通説)

不法原因給付と詐欺罪

 民法709の規定から、不法の原因のための給付は返還請求できない。そこで、詐欺により不法原因給付をした場合は、返還請求権がなく(=財産的損害がなく)、詐欺罪は否定されるか?
判例詐欺罪を肯定する。「財物に対する支配権を侵害したから」=占有それ自体を保護法益とする。
否定説上記下線部。

 ☆二項詐欺については、裁判例は分れている。
 (肯定説)処罰根拠は財産保護だけでなく、違法な行為が社会秩序を乱すのを抑止すること
 (否定説)公序良俗に反する契約は無効であり、債務を負担することはない、とする。
 二項詐欺については西田p204参照。山口p244(明らかに民法上保護されない利益は二項詐欺の客体から除外されると解する)。

横領罪

「横領」の意義

  1. 領得行為説T(利用意思実現)通説(不法領得の意思必要説)
    1. 【定義】不法領得の意思を実現する一切の行為
    2. 【根拠】(委託物横領罪の法定刑が器物破損罪のそれより重いのは)物の効用の取得という強力な動機があることに基づく責任の加重。責任加重根拠を提供する不法領得の意思を要件とする領得行為説が妥当
    3. 【批判】?
  2. 領得行為説U(所有者でないと出来ない処分の意思)判例(不法領得の意思不要説?)
    1. 【定義】所有者でないとできない処分をする一切の行為(毀棄・隠匿が含まれる)
    2. 【根拠】?
    3. 【批判】利用意思こそが責任加重を基礎づける本質的な要素である。(結論として越権行為説と同様になる)山口各論p299
  3. 越権行為説(不法領得の意思不要説)
    1. 【定義】委託の趣旨に反する権限逸脱行為(毀棄・隠匿が含まれる)
    2. 【根拠】信義誠実違背の側面を重視する
    3. 【批判】不法領得意思を要求すべき。処罰範囲が広くなる。

「不法領得の意思」の意義

 窃盗罪においては「排除意思+利用意思」であるが、横領罪の客体は「自己の占有する他人の物」であるため、「不法領得の意思」の内容は、利用意思のみとなる。

背任罪(247)

(背任)
第二百四十七条  他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

詐欺罪との関係

他人の事務処理者が、本人を欺罔して、物・利益を交付させた場合、詐欺罪が成立するのか?背任罪が成立するのか?

@詐欺罪成立説(判例)妥当
A両罪観念的競合説
Aへの批判「法益侵害が一つの場合に、詐欺罪と背任罪の観念的競合を肯定することはできない」「詐欺罪が成立するなら詐欺罪を肯定するのが妥当(法条競合)」山口各論p325

盗品等に関する罪

盗品罪と共犯

【本犯の犯人】→盗品等関与罪は不成立(不可罰的事後行為)
【本犯の共同正犯】正犯と同じ。
【本犯の教唆・幇助】
 併合罪説(判例)本犯と盗品罪は併合罪となる。(山口も)
 牽連犯説(曽根、前田)←必ずしも原因結果の関係にない、と批判される。
 否定説(西田):共同正犯について否定する以上、教唆幇助についても否定すべき。

社会的法益に対する罪

放火及び失火の罪

建造物等以外放火110

(建造物等以外放火)
第百十条  放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2  前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

公共の危険

 ☆公共の危険(具体的危険)の発生が犯罪成立要件となる。

公共の危険の認識
 判例=認識不要説:(「公共の危険」は加重結果に過ぎないという考えにつながる)(「よって」は結果加重犯的規定であると解釈)
 認識必要説(山口):(「公共の危険」は構成要件要素と解する):責任主義、故意犯処罰の観点から当然要求されるべき。故意がなければ、失火罪(116.2)が成立するにとどまるとする。

文書偽造の罪

「偽造」の意義

  1. 偽造(有形偽造)=作成名義の冒用
     ・「作成者=名義人」(同一)→有形偽造否定
     ・「作成者≠名義人」(非同一)→有形偽造となる
  2. 虚偽文書作成(無形偽造)=作成権限者による内容虚偽文書の作成
  3. 変造=真正に成立した文書に変更を加える
    1. 有形変造=無権限者による変造
    2. 無形変造=権限者による変造

■形式主義=有形偽造を処罰対象し、文書の成立についての真正を保護する。
■実質主義=無形偽造を処罰し、文書の内容的真実を保護する。
現行刑法は形式主義を取る

「名義人」とは、「作成者」とは誰か

 名義人作成者の非同一性が有形偽造の成立を画するのであり、名義人の定義と作成者の定義は表裏一体のものと思われる。(山口各論p430参照)

    【名義人】定義に関する学説
  1. 思想主体説:自分の意思を文書に表明している人が名義人
  2. 効果説:法的効果が帰属する人が名義人通説・判例
  3. 資格氏名一体説:「甲代理人乙」という代理資格の表示と代理人氏名が一体となったものが名義人西田p367←技巧的すぎる!
  4. 帰属説(責任主体説):文書に記載された意思表示が名義人に帰属するか否かで判断。
    【作成者】定義に関する学説
  1. 事実説(行為説):現実に物理的に文書を作成した者をいう←秘書が作成すれば有形偽造になってしまう。
  2. 意思説(観念説):文書に表示された意思・観念が由来する者をいう(通説)←名義人の意思に基づくか否かで有形偽造の肯否を判断するのは不明確
    1. 事実的意思説:事実として誰の意志で文書が作成されたかで判断
    2. 効果説(効果帰属説、規範的意思説):文書の効果が帰属するものをいう←(1)自己名義の文書でも、公序良俗違反で、法的効果が本人に帰属しない場合、有形偽造ということになってしまう。(2)事実証明文書については、法的効果の帰属は問題にならない、(3)法的効果は文章の内容に係ることである。(無形偽造との関係?)また、民事法の善意者保護規定で、善意者が保護され、文書内容に対応した法的効果を追求できるかぎり、有形偽造が否定されることになり疑問である。
  3. 帰属説:文書を意思・観念の表示の証拠と解する立場から、意思・観念の帰属主体を作成者と解する。山口各論p431

帰属説への批判?

大塚裕史『刑法各論の思考方法』p403に出ている批判は、批判に当たるか?

事例1:AがA名義で公序良俗に反する文書を作成した場合、法律上の効力・効果を帰属させることは出来ないが、このような文書も真正に作成されたと解すべきでは?
(私見)公序良俗に反する以上、信頼を保護する必要がない。証拠としての要保護性に欠ける以上、そもそも文書偽造罪の保護客体にあたらない、というべきでは?……
事例2:AがBからお金を借りたが、Aが借用証書を作成しなかったので、Bが勝手に作成した場合、名義人Aには文書の内容通りの法律上の効果が発生するので、有形偽造を否定せざるを得ない。
 (私見)それは、文書の効果ではなく、契約の効果と、有形偽造文書の表示する効果が表面的に一致しているにすぎないのでは。Aに帰属する効果はあくまで契約の効果で文書の効果ではないと思われる……

代理名義の冒用

    代理権のない乙が【甲代理人乙】という表示をした場合
  1. を名義人とする説→乙による作成は有形偽造
  2. 「甲代理人乙」を名義人とする説→代理人でない乙による有形偽造
  3. 自身を名義人とする説→「甲代理人」は、文書の内容と考えるので、無形偽造となる(私文書の場合は現行法上不可罰=虚偽私文書作成罪は、虚偽診断書作成罪160以外は規定されていない)

わいせつ、姦淫及び重婚の罪

強制わいせつ等致死傷罪(181)

主観的要件:死傷に故意ある場合の処理

死亡について故意ある場合
@強制わいせつ等致死罪+殺人罪の観念的競合(判例)。
 ←批判:死亡結果の二重評価(※)は望ましくない。
@’強制わいせつ等致死罪のみ適用する説←加重結果に故意ある場合を含むことになる。 A強制わいせつ罪や強姦罪+殺人罪の観念的競合。このように扱っても、強制わいせつ致死罪のみを適用する場合との刑の不均衡は生じないから、妥当。
傷害について故意ある場合
B強制わいせつ罪や強姦罪+傷害罪の観念的競合とする説(大塚など)
 ←批判、強制わいせつ等致傷罪を適用する場合より刑の下限が低くなり、刑の不均衡を生じるので妥当でない
C端的に強制わいせつ等致傷罪の規定のみを適用する説:こう解するのが妥当(この限度で、181は加重結果に故意ある場合を含む規定である、とする。山口各論p113)

 =note=
 181を結果的加重犯の規定とするなら、A+Bとするのが理論的。結果的加重犯規定と解しない場合に、@Cの立場をとり得る。←嘘
 Cの山口は、刑の不均衡を避けるため、理論的整合性を後回しにしていると思われる。
 ※@の二重評価とは:@はあくまで、181は故意ある場合を含まない(=結果的加重犯規定)とし、181では、死を過失的に評価し、199では死を故意的に二重評価する、と言う見解。そりゃー、妥当じゃないべー。でも判例。

国家的法益に対する罪

内乱に関する罪

最も重い犯罪の一つ。予備・陰謀まで処罰対象とされ(78)、幇助までが可罰的とされている(79)。
政治犯の性格を有することから、法定刑は懲役ではなく禁錮とされている。

 【集団犯】
 内乱罪は多数者の関与を予定した犯罪で、必要的共犯のうちの多衆犯(または集団犯)である。
 @首謀者(77.1:1、死刑又は無期禁錮)
 A謀議参与者、B群集指導者(:2前半、無期または三年以上の禁錮)
 C諸般の職務従事者(:2後半、一年以上十年以下の禁錮)
 D付和随行者、単なる暴動参加者(:3、三年以下の禁錮)

内乱罪に関する共犯規定

  1. 共犯規定不適用説(団藤、大塚など)
    1. 【趣旨】必要的共犯としての多衆犯においては、刑法の共犯規定(61)の適用はなく、関与者は、首謀者・指揮者・率先助勢者・付和随行者のいずれか(=77.1に規定された関与形態)として処罰されるにとどまる。
    2. 【批判】77.1の規定は、そこに規定されていない行為類型すべてを不可罰とする趣旨で立法された規定とは言えない。
       ・破壊活動防止法41は、内乱罪の教唆につき、刑法総則の教唆規定を排除しないと定めている。(前田p430)
    3. 【教唆は?】破壊活動防止法38.1または41によって処罰されることになりうる?
    4. 【破壊活動防止法38.1、41の位置づけ】刑法より処罰範囲を拡張したものととらえる事になる。
  2. 共犯規定適用説
    1. 【趣旨】集団外の関与者につき、共犯規定(61)の適用を否定する理由はないとする。(西田、山口)
    2. 【批判】77.1の規定は、関与者を一定の態様と限度で処罰しようとするもので、それ以外の態様の関与行為は排除されるべき。
    3. 【教唆は?】刑法61.1により処罰される。
    4. 【破壊活動防止法38.1、41の位置づけ】刑法総則の共犯規定が適用されることを当然の前提とした規定と位置づける。

《関連条文》
第六十一条  人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

(内乱)
第七十七条  国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一  首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
二  謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。
三  付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。

(内乱等幇助)
第七十九条  兵器、資金若しくは食糧を供給し、又はその他の行為により、前二条の罪を幇助した者は、七年以下の禁錮に処する。

破壊活動防止法

(内乱、外患の罪の教唆等)
第38条 刑法第77条、第81条若しくは第82条の罪の教唆をなし、又はこれらの罪を実行させる目的をもつてその罪のせん動をなした者は、7年以下の懲役又は禁こに処する。

(教唆)
第41条 この法律に定める教唆の規定は、教唆された者が教唆に係る犯罪を実行したときは、刑法総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。この場合においては、その刑を比較し、重い刑をもつて処断する。

公務の執行を妨害する罪

強制執行妨害罪

保護法益(強制執行妨害罪の)

  1. もっぱら債権者の債権とする説判例(曽根、前田など多数説)→債権の存在は不可欠。
  2. 強制執行の機能を保護するとともに併せて債権者の債権の実現という利益をも保護するとする説(団藤、西田、山口)→行為時に債権が存在する可能性があれば足りる。

犯人隠匿罪

「罪を犯した者」の意義

犯人隠匿罪の客体は@罰金以上の刑に当たる罪を犯した者、A拘禁中に逃走した者。
 「罪を犯した者」の意義が問題となる。

  1. 真犯人に限る説
    1. 【根拠】文理に素直な解釈。無実の者を隠匿することは刑事司法作用を侵害する程度も低く、期待可能性も乏しい。
    2. 【批判】捜査対象者を含めなければ、捜査・審判作用の保護が図れない。真犯人確定が前提となれば、隠匿に完全に成功すれば本罪での処罰に困難を来す。
    3. 【反論】本罪成立の前提として他の犯罪の認定を要するが、それは本罪に限らない。
  2. 犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっている者説判例
    1. 【根拠】捜査対象者を含めなければ、捜査・審判作用の保護が図れない。真犯人確定が前提となれば、隠匿に完全に成功すれば本罪での処罰に困難を来す。
    2. 【批判】(1)無実の者を隠匿する行為を処罰するのは過度の犯罪化。
      (2)この説を文字どおり解釈すれば、捜査開始前の真犯人を客体から除外することになり妥当でない。
      (3)誤って捜査対象にされている者の嫌疑を晴らすため、真犯人が名乗り出ることも、犯人隠避として処罰されかねない。
  3. 「真犯人と強く疑われる者」を指すとする説
    1. 【根拠】捜査対象者説を基本としつつ、明らかに真犯人でない者を含めるのは、刑事司法作用を過度に保護する嫌いがあるとして、客体を限定する見解。
    2. 【批判】基準が不明確。

偽証の罪

「虚偽の陳述」の意義

 ・主観説=抽象的危険犯説につながる、客観説=具体的危険説につながる、と言われることもあるが、論理的につながるものではない現に、偽証罪を抽象的危険犯と捉える山口先生は客観説に立つ。

主観説からの「虚偽の陳述」の処理

「虚偽の陳述」=記憶に反する陳述
・真実か否かを判断するのは裁判所の役目。
・記憶に反する陳述は、証明力・信憑性を損ない、国家の審判作用を侵害する抽象的危険を有する。

  1. T真実だった場合
    1. TA真実の認識
      1. TAア・真実の認識+記憶に合致→無罪
      2. TAイ・真実の認識+記憶に反す→有罪
    2. TB真実でない認識
      1. TBア・真実でない認識+記憶に合致→無罪
      2. TBイ・真実でない認識+記憶に反す→有罪
  2. U真実でなかった場合
    1. UA真実の認識
      1. UAア・真実の認識+記憶に合致→無罪
      2. UAイ・真実の認識+記憶に反す→有罪
    2. UB真実でない認識
      1. UB真実でない認識+記憶に合致→無罪
      2. UB真実でない認識+記憶に反す→有罪

主観説への批判

TAイ・客観的に真実であり、真実の認識があるのに、記憶に反するというだけで危険が生じるのか

客観説(山口)からの「虚偽の陳述」の処理

「虚偽の陳述」=真実に反する陳述
・陳述が真実に合致しないときに初めて、審判作用を害する抽象的危険が発生。
・記憶に反していても、客観的真実に合致していれば、誤判に導く危険性はない。

  1. T真実だった場合
    1. TA真実の認識
      1. TAア・真実の認識+記憶に合致→無罪
      2. TAイ・真実の認識+記憶に反す→無罪
    2. TB真実でない認識
      1. TBア・真実でない認識+記憶に合致→無罪
      2. TBイ・真実でない認識+記憶に反す→有罪
  2. U真実でなかった場合
    1. UA真実の認識
      1. UAア・真実の認識+記憶に合致→故意阻却=無罪
      2. UAイ・真実の認識+記憶に反す→故意阻却=無罪
    2. UB真実でない認識
      1. UBア・真実でない認識+記憶に合致→有罪
      2. UBイ・真実でない認識+記憶に反す→有罪

客観説への批判

客観説真実か否かを陳述者に判断されるのは過剰な負担を強いるもの。
UBア・記憶通りに陳述しているにもかかわらず、それが真実でないと思っており、信じてでなかった場合に処罰するのは不当では? ★(上記問題の処理案):記憶に反する供述を強要できない=期待可能性がないとして責任阻却する道がある。大塚裕史『刑法各論の思考方法』p488

曽根説からの「虚偽の陳述」の処理(魅力的)

「虚偽の陳述」=記憶に反する陳述(基本的に主観説が妥当とする)
・記憶に反していれば、すべて可罰的違法性を有するのではなく、客観的真実に合致している場合は、危険性が発生せず、違法性が阻却されるとする。

  1. T真実だった場合
    1. TA真実の認識
      1. TAア・真実の認識+記憶に合致→無罪
      2. TAイ・真実の認識+記憶に反す→真実なので違法性阻却=無罪
    2. TB真実でない認識
      1. TBア・真実でない認識+記憶に合致→無罪
      2. TBイ・真実でない認識→真実なので違法性阻却=無罪
  2. U真実でなかった場合
    1. UA真実の認識
      1. UAア・真実の認識+記憶に合致→無罪
      2. UAイ・真実の認識+記憶に反す→有罪
    2. UB真実でない認識
      1. UB真実でない認識+記憶に合致→無罪
      2. UB真実でない認識+記憶に反す→有罪

曽根説への批判

★主観説を取る以上、記憶に反する陳述であれば、構成要件該当行為であるところ、真実であれば違法性がないと考えると、構成要件の違法性推定機能を否定することになる。
・(上記批判に対する疑問):主観説(記憶に反する陳述)に加えて「客観的真実に反する陳述であること」も構成要件要素としてはいけないのであろうか???(私見「二重の縛り論」w)











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