法学座敷牢 別名 ろおやぁ

いんでっくす あばうと りんく ぶろぐ けいじばん

択一対策知識整理ノート:刑法 総論

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目次(山口犯罪論体系順)

  1. 構成要件該当性
    1. 構成要件の概念
      1. 構成要件の諸概念
      2. 違法行為類型としての構成要件
      3. 構成要件要素
    2. 主体
      1. 自然人
      2. 法人
    3. 行為と結果
      1. 行為
      2. 結果
    4. 因果関係
      1. 総説
      2. 条件関係
      3. 相当因果関係
      4. 客観的帰属 遡及禁止原則(山口)
      5. 間接正犯
    5. 不作為
      1. 総説
      2. 作為と不作為の区別
      3. 不作為と因果関係
      4. 保障人的地位
      5. 作為可能性
    6. 主観的構成要件要素
      1. 総説
      2. 責任要素としての主観的構成要件要素
      3. 主観的違法要素
  2. 違法性
    1. 総説
      1. 違法性の概念
      2. 違法性と違法性阻却
      3. 違法性阻却の実質的原理
    2. 正当行為
    3. 正当防衛
      1. 正当防衛の独自性
      2. 正当防衛の成立要件: 「不正の侵害」の意義 自招防衛
      3. 過剰防衛
      4. 盗品等防止法の特則
    4. 緊急避難
      1. 総説
      2. 緊急避難の成立要件
      3. 過剰避難
    5. 被害者の同意
      1. 総説
      2. 同意の有効要件
      3. 同意の効果
      4. 治療行為と同意
      5. 生命侵害と同意
      6. 推定的同意
      7. 危険の引受け
    6. 実質的違法性阻却
      1. 超法規的違法性阻却
      2. 「可罰的違法性」論
  3. 責任
    1. 総説
      1. 責任の意義
      2. 心理的責任論と規範的責任論
      3. 行為責任と人格責任
    2. 故意
      1. 総説
      2. 故意の要件
      3. 未必の故意
    3. 事実の錯誤
      1. 総説 具体的法定符合説vs抽象的法定符合説
      2. 具体的事実の錯誤 事実の錯誤 客体の錯誤 方法の錯誤 因果関係の錯誤 (ウェーバーの概括的故意) (早すぎた構成要件の実現)
      3. 抽象的事実の錯誤
    4. 過失
      1. 総説
      2. 過失の要件
      3. 管理・監督過失
    5. 違法性の意識
      1. 総説:判例・学説
      2. 違法性の意識の可能性の必要性
      3. 違法性の意識の内容
      4. 違法性の意識の可能性
    6. 期待可能性
    7. 責任能力
      1. 心神喪失・心神耗弱
      2. 刑事未成年
      3. 原因において自由な行為
  4. 未遂犯
    1. 総説
    2. 実行の着手
    3. 不能犯
    4. 中止犯
      1. 刑の減免の根拠
      2. 犯罪の中止
      3. 任意性
      4. 予備犯と中止
  5. 共犯
    1. 共犯の基礎理論共犯の本質
      1. 総説
      2. 共犯の因果性
      3. 共犯の従属性
    2. 共犯類型
      1. 教唆
      2. 幇助: 間接幇助 幇助の因果性
      3. 共同正犯
    3. 共犯の諸問題
      1. 共犯と身分
      2. 必要的共犯
      3. 共犯と違法性阻却事由
      4. 共犯と錯誤
      5. 片面的共犯
      6. 承継的共犯
      7. 共犯関係からの離脱
      8. 過失と共犯
      9. 不作為犯と共犯
  6. 罪数
    1. 総説
    2. 法条競合
    3. 包括1罪
    4. 科刑上1罪
    5. 併合罪
  7. 刑法の適用範囲
    1. 時間的適用範囲
    2. 場所的適用範囲

因果関係

相当因果関係

・相当性判断の基準
@主観説行為者が認識予見した事情+認識予見しえた事情を考慮
A客観説行為時のすべての事情+行為後に生じた客観的に予見可能な事情を考慮
B折衷説行為時に一般人に認識予見可能であった事情+行為者に特に認識予見されていた事情を考慮
 通説は折衷説。山口、前田は客観説。
 それぞれへの、批判のまとめ。
@主観説への批判行為者が認識し得なくても、一般人が当然認識しうる事情を除外するのは不当。因果関係が狭きに失する。
A客観説への批判一般人ですら知り得なかった事情を考慮するのは、行為者に酷である。
B折衷説への批判因果関係が行為者の主観の有無によって左右されるのは不当。前田p180(これは@にもあてはまる批判)
単なる行為者の事実の認識の差によって因果関係という客観的構成要件要素の判断に差が生じるのはそれ自体妥当でない山口p56@Bへの批判。

主観説や折衷説は、因果関係論に責任の要素を広く盛り込もうとする立場前田p182
 であるなら、構成要件該当性を判断する要件である因果関係に責任要素を盛り込むのは不合理で、客観説が妥当だと思われる。

遡及禁止原則(山口)

・条件関係、相当因果関係をさらに限定する一般的な結果帰属の基準
・「構成要件的結果につき完全な故意ある行為の、背後の行為には、構成要件的結果は帰属されない」=「故意行為以前に遡って結果惹起の責任を追及できない」=遡及禁止山口p64

違法性:正当防衛

正当防衛の成立要件

「不正の侵害」の意義

□対物防衛否定説……侵害に行為性を必要と解する(人の行為のみ)
□対物防衛肯定説……行為性不要(山口)

・侵害者に落ち度(帰責性)は不要。客観的な違法性があれば足りる

自招防衛

  1. 「急迫性」欠如説:侵害の急迫性が欠けるため正当防衛にならない。判例
  2. 社会的相当性欠如説:社会的相当性を欠くから違法性が阻却されず、正当防衛ではないとする←行為無価値に立つもの
  3. 権利の濫用説:形式上は正当防衛でも、権利の濫用なので違法性阻却しない←どのような場合に濫用なのか不明確。一般条項を刑法解釈において安易に認めるのは危険。
  4. 「法確証の利益」喪失説曽根総論p114:《法確証の利益》=正当防衛には、急迫不正の侵害に対して、個人の法益を保護するための客観的生活秩序である法が現存することを確証する利益が存在していることも、正当化根拠の一つ、とする。そして、自招の場合は、この利益が減少ないし消滅するので、正当防衛は認められない。←いかなる場合に《法確証の利益》が失われるのかが問題
  5. 「原因において違法な行為」の構成山口:正当防衛の成立は肯定したうえで、それを介して(招致行為により)法益侵害を惹起したことを理由に犯罪の成立を肯定する。危難を招致する行為の故意の内容により成立する犯罪は限定される。山口総論p111:「正当防衛行為を道具として利用している」とも表現される前田p230←(批判)違法ではない挑発行為と、違法でない正当防衛行為が合わさると何故違法になるのか(正+正=不正?)。適法行為を生じさせることが何故違法なのか。←(反論)一連の行為を全体として判断したとき、その一部にそれ自体として適法な行為が介入したからといって全体としての法益侵害惹起の違法性が必ずしも否定されるわけではない。(探究p109)

責任:事実の錯誤

錯誤の存在にもかかわらず、結果への認識・予見としての故意を肯定しうるか=どこまでの事実の食い違いを捨象しうるか=認識・予見があった、と言いうる最低限の内容は何かを画する問題である。

錯誤の類型

具体的事実の錯誤(同一構成要件内)→←抽象的事実の錯誤(異なる構成要件にまたがる)
客体の錯誤(侵害客体の取り違え、勘違い)、方法の錯誤(打撃の錯誤)(誤って別の客体を侵害)、因果関係の錯誤(結果発生にいたる因果経過が予想と違う)
■■上記2軸の分類を組み合わせると6種類の錯誤事例があることになる。

学説

抽象的符合説×……何らかの構成要件に該当すれば足りる!
純粋具体的符合説×……あらゆる事実が重要
法定的符合説、または、構成要件的符合説(判例通説)……故意の認識対象として重要か否かを判断する基準として構成要件を用いる。行為者が認識した事実と実際に起こった事実が「構成要件の枠内で」重なり合うときに、その限度で故意を肯定する
 さらに、法定符合説は構成要件の理解によって二つに分かれる。
■■抽象的法定符合説(一般に言う「法定的符号説」)(判例・多数説)……構成要件該当事実を構成要件要素のレベルで抽象的に捉え、事実の個別具体性を一切捨象する。
■■具体的法定符合説(一般に「具体的符合説」)(山口説)……構成要件該当事実を構成要件要素のレベルで抽象的に捉えるのは同じだが、事実の個別具体性は捨象できないとする。

抽象的法定符合説と具体的法定符合説を対比して表にまとめること!

具体的法定符合説 抽象的法定符合説
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)
〜の問題 (具体的) (抽象的)

客体の錯誤

方法の錯誤

 ・具体的法定符合説から
 Aをピストルで撃ったら、弾が逸れてBを殺してしまった(方法の錯誤)。→Aへの殺人未遂とBへの過失致死罪が成立。
 ・抽象的法定符合説に立つ前田先生からの批判:Aの飼犬を殺そうとしてAの飼い猫を殺してしまった「方法の錯誤」の事例→犬につき器物損壊罪の未遂、猫につき過失器物損壊罪となり、現行法上どちらも不可罰なので、結論が不当ではないか?総論講義p320
 ・(私見)その場合、犬も猫もどちらも「Aのペット(Aの財物)」であり、侵害される法益主体が同一なので、故意を阻却しない、と(具体的法定符合説の立場からも)言えるのではないか? Aのペットにつき器物破損罪既遂でいいのでは?(心臓を打ち抜いて殺そうとしたが、実際には頭を打ち抜いて殺した、という場合に相当する?)(それともこう考えることは既に抽象的法定符合説なのだろうか?)
 「構成要件的に重要でない「打撃の錯誤」は故意を阻却しない。傷害罪における障害部位の錯誤。さらに、同一の法益主体に属する財物間の錯誤も同様に解する余地がある。」(探求p122)但し「「Aに属する個別の財産」ではなく「Aの財産」の個別の侵害が器物破損罪の構成要件をなすと考えることが前提となる」総論p189
 ・但し、Aの犬を殺そうとしてBの犬を殺してしまった「方法の錯誤」の場合は、A犬につき未遂、B犬につき過失で、どちらも不可罰とするしかないが、それはそれで不当ではないと思う。Aの法益(財物)は、実際侵害されていないし、Bさんの財物への侵害は、過失なので、民事上の損害賠償責任だけを負うということで。

因果関係の錯誤

(ウェーバーの概括的故意)

(早すぎた構成要件の実現)

のちに行う第二行為によって結果を実現しようとしたが、第一行為により結果が惹起されてしまった場合。

  1. 限定的な故意肯定説基本的に第二行為の故意を認めないが、両行為が接着し密接に関連するものであれば第一行為に一連の行為の故意を認め、故意既遂犯を認める説。前田総論p326
  2. 因果関係の錯誤説因果関係の錯誤は故意を阻却しない。よって故意既遂犯を肯定する。
  3. 山口説結果について故意を有する第二行為を留保している第一行為者には故意は認められない。第一行為と結果の間に構成要件該当性を肯定しうるとしても、故意がないため、故意既遂犯は成立せず、過失があれば、過失犯が成立するにすぎない。
     「未遂犯」について:処罰時期の繰上げにより、遡及禁止原理が修正され、故意行為を留保している段階でも未遂犯は成立しうる。山口総論p194-195

責任:違法性の意識

第三十八条  
3  法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

 38.3は法律の錯誤があること=違法性の意識に欠けることは犯罪成立を妨げないと規定する。

判例・学説(違法性の意識)

  1. 違法性の意識不要説判例:「違法性の意識」は犯罪成立要件(もしくは故意の要件)ではない。
  2. 故意説:「違法性の意識(またはその可能性)」を故意の要素に位置づける。
    1. 厳格故意説
      1. 【定義】:「違法性の意識」を故意の要素とする。
      2. 【批判】(1)軽率に法的に許されていると思っただけで故意犯成立が否定されるのは結論として不当
        常習犯人(違法性の意識が鈍磨する)を重く処断し、確信犯(違法性の意識なし)を処罰する根拠がなくなる。
      3. 【38.3の理解】本文:条文のあてはめの錯誤は故意は阻却しない、と読む。 但書:条文を誤ったが違法性の意識はある場合(苦しい!)
    2. 制限故意説T
      1. 【定義】:「違法性の意識の可能性」を故意の要素とする。
      2. 【批判】可能性概念を故意の要素とすることに疑問が生じる。故意は事実の認識であり「あるかないか」であるはず
      3. 【38.3の理解】本文:違法性の錯誤に過失がある場合に処罰する特別規定 但書:過失なので減軽の余地を認めた規定
    3. 制限故意説U
      1. 【定義】:「違法性の意識」を欠いたことに過失があれば故意責任を問う説。
      2. 【批判】違法性の意識を欠いたことに「過失」しかないのに何故、故意責任を問いうるのか疑問
      3. 【38.3の理解】本文:条文のあてはめの錯誤は故意は阻却しない 但書:違法性の意識は可能だったが困難だった場合
  3. 責任説:「違法性の意識の可能性」を故意犯及び過失犯に共通の責任要素と位置づける。
    1. 厳格責任説
      1. 【定義】:(1)違法性阻却事由該当事実の誤信について故意阻却を否定し、(2)違法性の錯誤として、「違法性の意識の可能性」の有無を基準に責任の有無を決する。
      2. 【批判】
      3. 【38.3の理解】本文:違法性の意識がなくても故意阻却しない 但書:違法性の意識は可能だったが困難だった場合 :
    2. 制限責任説
      1. 【定義】:違法性阻却事由該当事実の誤信について故意阻却を肯定する。
      2. 【批判】
    3. 判例説もここに位置づけられる?(前田)
      1. 【定義】:違法性の意識がなくても故意を阻却せず、故意があれば原則可罰的(違法性の意識不要説)
      2. 【批判】あまりに必罰主義的
      3. 【38.3の理解】本文:違法性の意識がなくても故意阻却しない 但書:違法性の意識に欠け宥恕すべき場合を規定

問題文のキーワードを頼りに何説を採るか判別できるように(涙)

責任:期待可能性

適法行為の期待可能性の欠如は(超法規的)責任阻却事由

期待可能性の判断基準

  1. 行為者基準説
    1. 【定義】行為者が当時の具体的状況の下で適法行為をなしうる可能性があったかどうか。
    2. 【根拠】人間性の弱さに対して法的救済を与えること。
    3. 【批判】すべての事情を考慮すれば、常に期待可能性がないことになってしまう。←(反論)意思の自由を前提とするかぎり、行為者本人にとってもなお期待可能性があるとされる場合を認めうる。(曽根総論p181)
  2. 平均人基準説
    1. 【定義】通常人または平均人が当該状況にあった場合に適法行為を期待しうるかを基準にする。
    2. 【根拠】法は一般人に要求される準則の違背を有責的として非難するから。
    3. 【批判】(1)一般人の基準が不明確。(2)責任能力自体が平均人の観念を基礎として構成されているのに、さらに期待可能性の内容として平均人の観念を用いるのは、概念の重複である(大塚)。さらに、一般人に期待できても行為者に期待しえない場合をも有責とする点で妥当でない。曽根総論p181
  3. 国家標準説
    1. 【定義】適法行為を期待する国家を基準とする
    2. 【根拠】?
    3. 【批判】法律上いかなる場合に適法行為を期待できるかという問いに対し、法秩序がこれを期待する場合、と答えるのは、「問いをもって問いに答える」ことであり、循環論法である。
  4. 山口説(参考):これら諸説は部分的側面を把握する点において正しく、対立にさほどの意味はない。適法行為の期待可能性は、期待する側とされる側の「緊張関係」において判断されるべき規範的な問題である→結局は行為者標準説行為者の能力を前提とした上で、行為当時の行為者にその能力を発揮することにより、違法行為に出ないことが期待しえたかを判断する)を取るしかない。山口総論p218
  5. 曽根説(参考):責任非難が行為者に対する個別的・一身的な非難であって、行為者にとって可能なことを限度とするものである以上、行為者標準説が妥当。曽根総論p181

責任:責任能力

原因において自由な行為難解

前提と問題

 責任能力は構成要件該当行為時に存在する必要あり。行為と責任の同時存在の原則
 よって、結果を直接惹起させる行為の時点で心神喪失であれば、責任を問えないのが原則。しかし、結果行為時に責任能力がなくても、原因行為時に遡れば責任能力があれなら、構成要件該当事実を生じさせたことに完全な責任を問えるのでは? その法律構成は?

山口による見解分類

A・同時存在原則を維持しつつ、構成要件該当事実を原因行為時にまで遡及させる見解
B・同時存在原則の例外を認め、責任だけを原因行為時にまで遡及して問う見解

道具理論(間接正犯論の準用)−−通説?

■責任無能力状態の自分を「道具」として利用し、犯罪を実行と評価→間接正犯とほぼ同一と考える。間接正犯で、利用する行為に実行行為性を認めるのであるから、同様に、原因行為にも実行行為性を認めうるとする(団藤)。同時存在原則を堅持している
■道具理論への批判。1、実行の着手時期が早すぎる。2、心神喪失では完全な責任を問うのに、心神耗弱(=道具とは言えないから)では、39.2により軽く処罰されるのは矛盾では。

山口説超難解p222

1・心神喪失の場合
故意責任を問う条件。1、原因行為と結果との間に条件関係あり。2、原因行為と結果との間に相当因果関係あり。3、結果行為による
遡及禁止原則が働かず、原因行為にまで構成要件該当事実を遡及しうることが要件。(責任を問い得ない故意行為には結果の引き受けが認められず、遡及禁止が妥当しない)4、結果惹起の予見に加えて、結果行為を心神喪失下で行うことの予見を要する(「二重の故意」)。

2・心神耗弱の場合
【判例】「原因において自由な行為」論を適用している。
・山口の説明は、ここでは相当苦しいような……(p225)

未遂犯

未遂 総説

 未遂犯は既遂の具体的危険を結果とする一種の具体的危険犯
 未遂犯成立に必要な故意は既遂結果発生の故意である必要がある→そこから未遂の教唆は不可罰という結論に至る。

実行の着手

刑法43本文:第四十三条  犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。
 これにより実行の着手の有無が、未遂成立を画することになる。

    【学説の諸相】
  1. 主観説:行為者の犯行の意思の表動に求める見解←予備も未遂となり、未遂犯成立限定機能が「実行の着手」から失われてしまう。
  2. 客観説:多数説。さらに分かれる。
    1. 形式的客観説:(既遂犯の)構成要件該当行為への着手を要求する(団藤)←何ら実質的な基準を持っておらず、「問いをもって問いに答えるに等しい」と批判される(山中)(LECハイレベル9-45)
    2. 実質的客観説:「既遂惹起の危険性のある行為への着手」又は「既遂惹起の危険の発生」をもって実行の着手を肯定する(大塚、大谷など)(判例)危険概念が程度概念であり柔軟であるところから、実行の着手時期が曖昧になる(山口総論p232)
    3. 山口:形式的基準と実質的基準は相互補完的関係にあると理解すべき。

■着手未遂(未終了未遂)……実行行為自体が終了していない。
■実行未遂(終了未遂)……実行行為は終了したが結果が発生しなかった。
以上、前田p141。
山口は実行行為という観念自体を用いないので、出てこない。←本当に??本当!

不能犯

  1. 不能犯:実行に着手しても、既遂結果の発生が不能であるため未遂犯が成立しない=既遂の具体的危険の不発生
    1. 方法の不能。ex.警官のピストルを奪って発砲したが、弾が入っていなかった。砂糖で人が死ぬと思って、砂糖を飲ませた。わら人形に五寸釘。
    2. 客体の不能。侵害されるべき法益自体がそこに存在しない。ex.空ベッド事例。空ポケット事例。
    3. 具体的危険の判断方法(未遂成立か?不能犯か?)
      1. ×具体的危険説(多数説):事前の一般人の認識可能性+行為者の認識
      2. △客観的危険説:事後的に全事情を客観的に評価すれば、すべて不能犯になってしまう。
      3. 修正された客観的危険説
         @結果を発生させるべき仮定的事実は何かを科学的に判断
         Aその仮定的事実の存在可能性を一般人の事後的危険感を基準に判断

 ★「方法の不能」でも「客体の不能」でも、未遂は成立しうる。
 山口は客体の不能の場合(空ベッド、空ポケット)で、具体的危険の発生を否定し、不能犯とするが、場合分けすれば、未遂成立もありうる。
 ・空ベッド事例で、たまたま一分前にトイレに立っただけの場合は、「そこにいた可能性も大いにありうる」と考えても、山口説に反するわけでもないだろう。
 ・空ポケットの事例でも、電車内であれば、通常財布をポケットに入れていると考えられるから、1たまたま5分前に落とした、2直前に別のスリにすられていた、3今日だけ偶然家に置き忘れて来た、などの場合、「持っていることも大いにありえた」と言えるのでは?
 ・逆に、体育館でジャージ姿だったら、ポケットの中に財布がある可能性は低い。財布を持たずに散歩をする習慣があった場合も同じ。
 ・空き巣に入って、箪笥などを散々物色したが、金目のものは一切なかったので何もとらずに帰った場合は、住居侵入のみ成立し、窃盗未遂は不能犯……?

 Q:会社員J.S.さんからの質問(2001.11.21) No.28
「Aは、Bの自転車を盗むつもりで、大学構内の駐輪場から自転車を盗んできた結果、それは実はCの自転車であった場合」Aには窃盗の未遂すら成立せずに、不可罰になってしまうのでしょうか。

また、Bの自転車が、
(1)その駐輪場にはなかった場合。
 
A:山口先生の回答
この事例は、いわゆる客体の錯誤の事例(Bだと思ったらCだったという事例)ですから、窃盗既遂が成立します(その場合に故意を肯定する論理過程については、本書186頁7行目以下を参照して下さい)。このような事例について、いわゆる方法の錯誤の場合を想定することは事実上困難でしょう。
なお、以上のように考えても、この場合、Bに対する未遂犯の成立も問題となります(これは、どの説でも同じく問題になります。抽象的法定符合説でも同じです)。
どの場合に、未遂犯が成立するかは、故意の問題ではありません。これは、未遂犯の成立要件である危険をいかに理解するかによります。想定事情(1)から(3)の違いはそれを判断する際に考慮される要素ではありますが、要するにBの自転車が盗まれる具体的可能性があったかが問題となるのです。(3)の場合にはこれを肯定することがおそらく容易でしょうが、(1)の場合でもBが一足先に乗って帰っていたようなときには、これを肯定する余地がないわけではありません。また、(2)の場合でも、Bの自転車を探したが、他人から教えられた場所が違っていたようなときには、未遂成立の可能性が全くないとは言い切れないと思います。もっとも、窃盗既遂が成立する場合ですから、こうしたことが実際に問題になることは事実上まずないでしょう。山口厚「刑法総論」質問・回答BOXより抄録

未遂:中止犯

犯罪の中止

 ★未遂を「実行行為」の終了の有無により、着手未遂(未終了未遂)実行未遂(終了未遂)に分ける見解あり(学説・判例)
 ■着手未遂(未終了未遂):中止は実行行為の不作為で足りる
 ■実行未遂(終了未遂):中止は結果発生を積極的に阻止する作為が必要
 現行法上、未遂犯に着手未遂と実行未遂の区別はなく、中止犯の中止の要件もそれに対応して異なっているのではないから、「実行行為の終了時期」を問題として中止要件をそれに応じて異なって解する見解は妥当ではない。山口p244

共犯の本質

共犯の類型

基本類型 具体的類型 処分
一次的責任類型 単独犯 正犯
一次的責任類型 共同正犯(広義の共犯に含む) 正犯とする
二次的責任類型 教唆(狭義の共犯) 正犯の刑を科する
二次的責任類型 幇助(狭義の共犯) 従犯(刑の減軽)

一次的責任:正犯を前提としない遂行形態。
二次的責任:正犯の存在を前提とする。一次的責任類型の背後に位置する。

共犯の処罰根拠

    【分類】
  1. 責任共犯論:正犯に有責な行為をさせた(堕落させ、罪責と刑罰に陥れた)ことが共犯処罰根拠とする:正犯には構成要件該当性・違法性・責任が充足される必要あり(極端従属性説)(行為無価値的)
  2. 違法共犯論:正犯に違法な行為をさせたことが処罰根拠:正犯には構成要件該当性・違法性があれば足りる(制限従属性説。通説)。
  3. 因果共犯論(惹起説):正犯の行為を介して法益侵害(構成要件該当事実)を自ら惹起したことを共犯処罰根拠とする(惹起説)
      【惹起説内部の分類】
    1. 純粋惹起説:正犯には構成要件該当性すら必要ないとして「正犯なき共犯」を肯定
    2. 修正惹起説:違法共犯論に依拠する(論者によって定義が違う)
    3. 混合惹起説:共犯の「2次的責任」性から、正犯に構成要件該当性・違法性を要求する(制限従属性説。通説と同じ)。:山口説

共同実行の意義 犯罪共同説vs行為共同説

もともと、共同正犯の本質論として始まった議論

犯罪共同説:特定の犯罪を共同して実行→共同正犯は「数人一罪」
行為共同説:行為を共同して各自の犯罪を実行→共同正犯は「数人数罪」:山口説
☆対立の意義=異なる犯罪間で共同正犯を肯定するか否か

共犯の従属性

@実行従属性(正犯が可罰的段階に至って、共犯も成立するのか)
A要素従属性(正犯行為はいかなる要件〔構成要件該当性、違法性、責任〕を備えるべきか)
B罪名従属性(同一の罪名においてのみ共犯成立?)

実行従属性

★教唆・幇助……正犯が未遂として可罰的になった段階で、共犯も成立
このことは、共同正犯にも妥当する。

共犯独立性説と共犯従属性説

@共犯独立性説:共犯行為自体の犯罪性だけで処罰しうる。(新派刑法学から)(行為無価値的)→教唆未遂を処罰する。
A共犯従属性説:共犯処罰は正犯行為を前提とする。(旧派刑法学)(結果無価値的)→教唆未遂は否定。処罰規定を欠く点からも不可罰(44)。山口p264

予備罪の共犯

★予備罪も一個の犯罪である以上、これに対する共犯も成立する。山口p265
☆予備罪を実行させる教唆も61条の「教唆して犯罪を実行させた」に該当する。予備は実行行為ではないから教唆は出来ないという形式論は説得性がない。前田p393

要素従属性

    【分類】
  1. 最小限従属性説:正犯には構成要件のみ要求。
  2. 制限従属性説:構成要件+違法性を要求。通説、山口
  3. 極端従属性説:構成要件+違法性+責任。(責任共犯論に結びつく)(行為無価値的)
  4. 誇張従属性説:構成要件+違法性+責任+処罰条件。(支持されない:65.2、244.3、などの明文に規定あり。)

罪名従属性

教唆・幇助の罪名は正犯の罪名に従うのか?

山口は基本的に、罪名従属性を否定。
・共犯者間においても、責任は個別に判断される。→責任内容によって罪名が異なる場合、罪名も異なることになる。
・ただし、正犯が故意犯なのか、過失犯なのか、という判断に限っては、罪名従属性あり。
・山口は、主観的構成要件要素を認めないために、この部分で、一度責任 要素として構成要件から排除した故意・過失を、犯罪個別化のために、構成 要件的故意・過失として呼び戻してくる。(それが「犯罪類型」を構成する
 その限りでは、罪名に従属する。
 故意・過失を主観的構成要件要素と認める通説と処理内容は変わらない。
 よって、山口説も、完全に制限従属性説。

共同正犯の罪名従属性

  1. ×完全犯罪共同説:異なる故意で、共同実行した場合、それぞれが単独正犯とする。→結論不当。
  2. 部分的犯罪共同説:故意の重なり合いの範囲内で、共同正犯成立とする。
  3. 行為共同説共同惹起(因果性・正犯性)した構成要件該当事実の範囲内において、自己の責任に応じた犯罪が成立=罪名従属性を否定する。山口説p270

幇助

間接幇助

 62.1……正犯の幇助の可罰性を規定。(共同正犯も正犯)
 ★問題は、従犯(幇助者)の幇助(間接幇助)、教唆の幇助の可罰性。

 《間接幇助について》
 正犯を間接的に幇助したことを理由に可罰性を肯定する説判例
 幇助が62.1に言う「正犯」にあたるとして可罰性を肯定する説(西田)←正犯と従犯を区別する現行法の文理に照らし疑問。山口p273
 ※「正犯」にあたる=正犯に、基本構成要件該当行為のみならず、修正された構成要件該当行為を行った者も含む見解。

 《教唆の幇助について》
 教唆の幇助は処罰規定を欠くから不可罰
 ・教唆も「正犯」であるとして、このような限定を取り外すのは妥当ではない。山口p274  

幇助の因果性

 幇助は、「幇助行為がなければ結果は発生しなかった」とは言いがたい共犯類型=条件関係を認めるのが困難→そこから、幇助の因果性に関するいろいろな説が出てくる。

    【幇助の因果性の学説分類】
  1. 因果関係不要説(ドイツ)
  2. 具体化説(ドイツ)
  3. 促進説:「結果を促進または容易にしたか否か」という基準を用いる(平野、西田、山口……)
  4. 結果変更説

共同正犯

    【共同正犯の範囲】
  1. 構成要件該当行為の分担実行(実行共同正犯)。(これに限るとする理解が「形式的正犯概念」
  2. 判例は、見張りや、謀議に参加しただけの者にも共同正犯を認める(共謀共同正犯)
  3. 「共同意思主体説」:判例の理論的根拠として、昭和初期に提唱された。数人の共謀により同心一体的な共同意思主体が成立→一人の実行は共同意思主体の活動であり、その責任は各人に帰属する、という理論。←個人責任主義と矛盾する契機をはらむ説明、と批判される
  4. ○「実質的正犯概念」構成要件該当事実への重要な因果的寄与による、その実質的な共同惹起・共同実行の有無を基準とする・山口p277

共犯と身分

65条1項・2項の意義、解釈

A説
B説
C説

片面的共犯

片面的共同正犯

意思の連絡が欠け、心理的因果性が存在せず、物理的因果性のみが存在する場合に、教唆・幇助または共同正犯が成立するか否か、という問題
☆犯罪共同説からは、否定
☆行為共同説からは、肯定しうる余地あり(山口は肯定する)

共犯からの離脱

着手前の離脱

翻意し、離脱意思を表明し、他の共犯者が了承したことを要する。
【共謀団体首謀者の場合】共謀がなかった状態に復元することを要する。
【教唆の場合】心理的因果関係の切断を要する=犯行意思を放棄させるか、一旦翻意させること。
【幇助の場合】心理的因果関係&物理的因果関係の切断。物理的因果関係については、@供与した道具を取り戻すorA翻意させること。心理的因果関係については、犯意の強化促進を消滅させること=離脱の意思表示or単なる離脱が正犯に認識されればよい。

着手後の離脱

離脱意思を表明し、他の共犯者が了承しても足りず、結果発生を阻止することが必要。
結果発生の為の積極的行為により因果関係を切断することを要す。前田p463)  

刑法の適用範囲

時間的適用範囲

場所的適用範囲

国内犯

(国内犯)
第一条  この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。

1.1は刑法の場所的適用範囲の基本原則《属地主義》を示す。

偏在説:構成要件該当事実の一部が日本国内で発生すれば、犯罪地は国内にあり、国内犯として処罰対象となる。
 ex.行為=国内、結果=国外
 行為=国外、結果=国内
 共謀=国内、犯罪行為自体=国外
 正犯行為=国内、教唆・幇助=国外
 正犯行為=国外、教唆・幇助=国内
 ……以上すべて、国内犯。
 ★犯罪地についての事実の錯誤は故意を阻却する。山口p331

国外犯

(すべての者の国外犯)
第二条  この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。

2は、内乱・外患・通過偽造などの重大犯罪につき、自国民であるかを問わず、国外犯も処罰する←我が国の利益を保護する保護主義の見地から規定。

(国民の国外犯)
第三条  この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。

3は、放火・殺人・強姦・強盗など比較的重い罪につき、自国民の国外犯を処罰すると規定。(積極的属人主義
 積極的属人主義:自国民が犯罪を犯したときに自国の刑法を適用。
 消極的属人主義:自国民が被害者となったときに自国の刑法を適用。→昭和22年の改正で、3条は改正され、日本人が被害者となった他国の犯罪では、他国の処理に任せることとなった(!)(3-2削除)←日本国憲法の採用した国際協調主義を踏まえて。前田p92

(公務員の国外犯)
第四条  この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国の公務員に適用する。

4は職権乱用罪など公務員犯罪←積極的属人主義ないし保護主義から。

(条約による国外犯)
第四条の二  第二条から前条までに規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。

4-2……世界主義に基づく。1987年の刑法一部改正で4-2追加。







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